Home > SAAB J-35J Draken (Hasegawa 1/72) 製作記

誌上個展

SAAB J-35J Draken (Hasegawa 1/72) 製作記
サーブ ドラケン(ハセガワ)

by Kiyoshi Iwama


J-35 Draken(1/72) Hasegawa Box Art より

実機紹介

 北欧の小国スウェーデンが、自前の超音速戦闘機SAAB J-35 Drakenをスウェーデン空軍(Svenska Flygvapnet)へ実戦配備を開始したのは、今から約半世紀前の1960年のことです。 我が国が超音速戦闘機F-104Jをライセンス生産し、航空自衛隊に部隊配備を始める少し前のことで、スウェーデンの航空技術力の高さを感じさせられます。

 スウェーデン空軍のこの新しい戦闘機に関する開発要求がまとまったのは、まだ第二次大戦後間もない1949年のことでした。その要求は、高空を高速で飛来するX国爆撃機の要撃を目的とするもので、ミサイルの装備が可能な、超音速戦闘機を求めるものでした。これに対応したのがサーブ社で、3案の提案がなされました。これらの提案はいずれも単座/単発の超音速機でしたが、サーブ社には未だ超音速機の開発の実績はなく、風洞試験やスケールモデル機を飛ばしての基礎研究からのスタートでした。 なかなか解を見いだせないまま時間が経過していきます。そんなとき、重要なヒントを与えてくれたのが、ドイツの航空力学の権威、アレクサンダー・リピッシュ博士が風洞試験を進めていた三角翼でした。こうしてリピッシュ博士の成果を取り入れ、ドラケンの形態が次第に固まって行きます。


 ドラケンのダブルデルタ翼の機体形状はこうして生まれ、サーブ社は7/10スケールモデルの実験機Model210/210Bを製作、飛行試験によりデータを蓄積していきます。この試験結果から、空力安定性、超音速での低抵抗、それに機体の高剛性といった、ダブルデルタ翼機の優位性が確認され、フルスケール・プロトタイプ機の開発へと進みます。そして、1955年10月25日、試作1号機サーブ35-1が初飛行に成功しました。この時のエンジンはアフターバーナー無しの、ロールス・ロイス エイボンMk 21でしたが、試作2号機35-2ではアフターバーナー付のR&R エイボン Mk 46にパワー・アップされます。 試作機は合計13機が製作され、各種試験を行いながら改修が重ねられ、1960年の春、最初の量産型J-35Aの部隊配備が開始されます。その後もドラケンは、J-35B、Sk-35C、J-35D、S-35E、J-35F、J-35Jと進化を遂げ、総計615機生産され、フィンランド、デンマーク、オーストリアにも輸出されました。(Sk-35Cは複座戦闘練習機、S-35Eは写真偵察機で、それ以外の型が戦闘機となります)最も多く生産されたのがJ-37Fで、因みにキットのJ-35Jはドラケンの最終バージョンで、67機がJ-35Fからアップデート改造され部隊運用されています。しかし寄る年波に勝てず、スウェーデンでは1998年12月に現役を引退しました。


《J-35J Draken の主要データ》
乗員: 1名、全長: 15.34m、全高: 3.87m、翼幅: 9.42m、翼面積: 49.22㎡、 
虚空重量: 7422kg、
エンジン: Volvo Flymotor RM 6C(Ebk 67 A/B付)、
エンジン推力: 12,889lb(ドライ)、 17,376lb(A/B使用時)、
最大速度: M2.0(クリーン状態)、
レーダ: PS-011/A、 
機関砲: 30mmアデン砲×1 
AAM: Rb 24(AIM-9)×6(Max)、Rb 27(AIM-26B)×4(Max)、Rb 28(AIM-4C)×4(Max)

製作

 今回は、スウェーデンが世界誇った超音速戦闘機、Saab J-35J Drakenをハセガワの1/72スケールキットで再現してみました。キットには2種類のデカールが付属していますが、ここではグレーのツートンカラーに身を包んだ、スウェーデン空軍F10航空団 第2飛行隊の機体に仕上げることにしました。実機も小粒ですが、キットもコンパクトで、64点の部品から構成されています。
キットのモールドは大変美しく、脚収納部等の開口部周辺もエッジが綺麗に成形されており、これだけでもこのキットを手にする価値があります。しかし組み立てるとなるといくつか欠点もあり、修正しながらの製作となりました。順を追って以下に紹介していきます。


 なお今回の製作にあたっては、キットのほかに、フィンランドのKuivalainenのエッチングパーツ(KPE72007)とハセガワのエアクラフトウェポン 3(1/72アメリカ空対空ミサイルセット)を使用しました。 フィンランド製のエッチングパーツは初めてですが、開封してみると中身はEduard製でした。

1.仮組

 上記のように部品点数の少ないキットです。まず主要部品をランナーから切り離し、少し整形して仮組みします。仮組部品は、胴体上・下面部、コクピット背部スパイン、主翼外翼、垂直尾翼、排気口部、機首レドーム、そしてインテーク先端部です。 こうして部品間の合わせ目の段差や隙間をチェックしていきます。このキットでは、これだけの仮組で機体全体のシルエットが出来上がります。(写真1)


写真1 機体主要部品の仮組状態


 チェックの結果、全体的には比較的良好だと言えますが、胴体部の接合でいくつか気になるところがありました。主翼内・外翼のつなぎ目、機首レドームと前胴部との接合部、そしてインテーク先端部の内翼インテーク部との接合部などに若干の段差や隙間が生じましが、こうした部分は、接着前に再度部品同士のすり合わせを行うとともに、必要ならパテで隙間を埋めておきます。 一番よくフィットしたのはコクピット背部スパインと胴体上面部との接合部分で、全く隙間ができずに驚きました。このパーツが別物である必要はないのですが、きっとハセガワさんは複座型の発売も検討されたのでしょう。(出して欲しかったですね)また垂直尾翼と胴体との接合部も良好でした。一番問題となったのが、胴体後部と排気口部との接合部で、こちらにはかなりの隙間が空くことが分かりました。(写真2) 


写真2 胴体後部と後端部との接合部

次に実際に胴体を組み立てていきますが、その前にいくつかやっておくことがあります。

2.コクピットの組立

 胴体の上・下面を接着する前に、コクピットを胴体下面に取り付けなければなりません。そのため、バスタブ型コクピット内と胴体パーツのコクピット部内壁をエアークラフト・グレーに塗り、主計器盤とサイドコンソールをエッチングパーツで組み立て、取り付けます。
 また左サイドコンソールにある、スロットルレバーをエッチング部品とプラ棒で製作し、接着します。次に塗装した操縦桿を取り付ければ、コクピットは完成です。射出座席は後で付けることにします。出来上がったコクピットが写真3です。

写真3 組み上がったコクピット



3.レドームの加工

 レドームにはピトー管が付きますが、キットでは棒状のピトー管(実機のピトー管にはテーパーが付いています)をレドーム先端に接着するよう指示されています。しかし、実機の印象と異なることと、付き合わせ接着では強度が得られないことから、少しだけピトー管が短くなりますが、レドームの先端にピンバイスで穴を明け、0.5㎜程ピトー管を押し込んで接着します。 またピトー管については紙やすりで先端部だけでも細くなるよう整形してみました。これでキットに付属するピトー管用のデカールは使えなくなり、ブルーと黄色の縞模様は塗装で表現することにしました。整形後のレドームを写真4に示します。


写真4 ピトー管を取り付けたレドーム

4.胴体の組立・塗装

 胴体の上下面パーツを接着する前に、胴体下に2本取り付ける増槽タンクのパイロンを先に接着しておきます。(写真5)この方が後で接着するより確実に取り付けられます。その後コクピットを胴体下面パーツに接着し、胴体上・下面を貼り合わせ、そして胴体後部に排気口部を接着します。
その後写真2で示した隙間部にプラ板を挿入し、接着・整形を行いました。写真6が整形を終えた状態の写真です。


写真5 増槽タンクのパイロン接着


写真6 排気口部取付け部にできた隙間の修整


 更に補助インテークを取り付けたコクピット背部スパインを胴体上面部に接着すると胴体の形状がほぼ出来上がります。(写真7)


写真7 組み上がったドラケンの胴体

 写真7では外翼とインテーク先端部は仮組状態です。外翼部は前縁部の金属色を塗ってから、またインテーク先端部も黒に塗装してから接着します。  また写真7では風防とキャノピーも仮組状態にありますが、フィット具合はまずまずです。


 次に胴体の仕上げです。実機の胴体下面は、前脚収納部付近から後方がジュラルミンの地肌となっています。また脚の収納部内も同様に無塗装のように見えます。そこで、胴体下面をMrカラーの⑧番(シルバー)で塗装しておきます。外翼と垂直尾翼は前縁部が無塗装ですので、胴体への接着前に全面にMrカラーのスーパーシルバーを吹き付け、乾燥後前縁部をマスキングします。
またインテーク先端部についても内面、外面ともグロスブラックで塗装し、乾燥後リップ部をマスキングします。その後外翼を内翼に、インテーク先端部を内翼のインテーク部に接着、さらにレドームを胴体に接着します。その後、インテーク先端部とレドームの接合面の段差がなくなるように仕上げると、胴体の加工は完了です。(写真8)


写真8 グレー塗装直前のドラケン


 最後に塗装ですが、まずピトー管をブルーと黄色の縞模様に塗装し、乾燥後マスキングしてグレーのツートンカラーの塗装に移ります。まず胴体下面の無塗装部をマスキングし、下面のライトグレー(FS36495)を吹き付けます。 その後垂直尾翼と機首下面の赤外線センサー(先端のセンサー部分はクリアブラックで先に塗装をしておく)を胴体に接着し、ライトグレー部をマスキングして上面のグレー(FS36320)を吹き付けます。この時注意することは、機首の濃淡グレーの境界面をボカシ塗装することです。

5.その他の部品

胴体以外に、まだいくつか部品が残っていますので主な物を紹介しておきます。
 <脚・車輪> 
前脚・主脚とも全体にシルバーを吹き付けた後筆塗りでタイヤをタイヤブラックで塗装しました。主脚には着陸燈がモールドされていますが、ライトの部分をWaveのH-EYES3ミニのクリアパーツを使ってみました。(写真9、10)

写真9 前脚

写真10 主脚



 <排気口、射出座席>
排気口はインストでは先に塗装して胴体内へ接着してしまうことになっていますが、作例では後から差し込めるように改修しました。(写真11)



写真11 排気口 
また射出座席にはエッチングパーツを使いましたが、シートベルトが何となくごつごつし、実感を損ねてしまったように思います。(写真12)


写真12 エジェクション・シート

 6.完成へ

 塗装の後は、エッチングパーツでコクピット周辺をディテール・アップし、デカールを貼り、クリアー塗料によるオーバーコーティング、パネルラインへの墨入れ、そして若干のウェザリング、といった手順を経て、キットの完成となります。 完成写真を紹介していきます。


写真13 完成機の側面

 増槽だけの装備は寂しく、ハセガワのエアクラフトウェポン 3(1/72)からAIM-9JとAIM-4DにRb 24JとRb 28の塗装を施し、パイロンに取り付けてみました。


写真14 右舷前方上方より見たJ-35J

 濃淡グレーのボカシ塗装が分かるでしょうか。コクピットにはHUDのハーフミラーを、キャノピーにはリアビュー・ミラーを取り付けています。 30㎜アデン砲の砲口には硝煙跡を付けました。


写真15 垂直尾翼

これはまだ墨入れ前の写真ですが、フィントップのピトー管を0.3㎜のステンレス棒で追加しています。 


写真16 左舷前方上方から見たJ-35J。内翼に赤で描かれた「39」の数字が目立ちます。


写真17 下面から見たJ-35J、ミサイルの配置が良く分かります。


 また小さくて見難いですが、前脚後方のタービン発電機までモデル化されています。
 小粒ではありますが、ピリリとするようなJ-35J ドラケンの完成です。米空軍のセンチュリーシリーズと同世代の機体ですが、ダブルデルタの独特の形状が、米軍機とは違った新鮮さを感じさせてくれます。
このキットはそうした雰囲気を正確に再現してくれます。この記事が少しでも製作のお役にたてば幸いです。皆さんも製作にチャレンジされては如何でしょうか。
 


 Home> SAAB J-35J Draken (Hasegawa 1/72) 製作記

Vol64 2014 February  www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
  無断転載を禁ず  リンクフリー
「webモデラーズ について」

特集1


TOTAL PAGE