Home  >Tyrrell 003 1971 MONACO GP (エブロ 1/20)


Tyrrell 003 1971 MONACO GP (エブロ 1/20)

by 田口博通 Hiromichi Taguchi
 



 エブロから 昨年からアナウンスされていた 待ちに待った1/20 タイレル003が発売されたので さっそくNEW KITレビューで紹介しよう。
 
 9月末に発売されたのは ハマーヘッド タイプの003で、1971年5月にジャッキー・スチュアートがモナコGPで優勝した時のマシンである。
 オールドモデラーにはなじみの深い7月フランスGP以降のスポーツカーノーズ タイプは後日、発売になるようだ。
 
 タイレルのこの戦闘力最強のオリジナルマシンは熟成された名エンジン フォード・コスワース・DFVを駆って、1971年はジャッキー・スチュアートが6勝を挙げ ワールドチャンピオンを獲得している。
 エブロのタイレルフォード003は 待っていたかいがあり、期待にたがわない出来で、きちっとしたモールド、カルトグラフ製のデカールで 緻密な模型に仕上がっている。また、ハイバックミラーに金属支柱の精密なものが奢られている。
 3次元CAD設計の利点が随所に生かされ、複雑な立体曲線のラジエターパイプや排気管などが「ぴたっ」と組みつけられ、さらに進化しているように感じる。 
 
 タイレルフォードはタミヤから1/12スポーツカーノーズ タイプが 古くに発売されて以来のモデル化だ。1/12では大きくて高価だったため、作りやすい価格帯の手ごろな大きさの1/20 キットの登場を待っていたモデラーも多かったと思う。

箱絵

実車について

 ティレル(Tyrrell Racing Organization Ltd.)は、ケン・ティレルが創始者として、1968年から1998年まで F1に参戦していたイギリスのコンストラクターである。名ドライバー ジャッキー・スチュワートにより1969年と1971年に計2度のコンストラクタータイトルを獲得し、名門チームとして有名だ。中嶋悟が在籍するなど、日本と縁の深いチームだった。
 1969年には、マトラ・インターナショナル(Matra International)の傘下で、車体にマトラMS80とフォード・コスワース・DFVエンジンの組み合わせでドライバーズ、コンストラクターズ両タイトルを制覇した。

 しかし、翌1970年、マトラがフォードのライバルであるクライスラー傘下のシムカと提携したため、マトラでは戦闘力の高いフォードコスワースDFVエンジンが使えなくなり、遂にティレルはマトラと決別し、新規のコンストラクターとして F1に参戦した。  
 1970年のシーズン当初はマーチの車体を使用しつつ、新設計のオリジナルマシン001を第11戦カナダGPで初登場させ、ジャッキー・スチュワートにより南アフリカGPと、Questor GPで2位になり鋭い戦闘力を見せ始めた。 

 続けて1971年はエルフ タイレルチームとなり、投入された002はフランソワ・セベールが乗り、USGPで1勝を挙げている。
 003にはジャッキー・スチュワートが乗り、スペイン、モナコ、フランス、イギリス、ドイツ、カナダGPで6勝し、2年ぶりに、またもやドライバーズ、コンストラクターズ両タイトルを制覇した。

 003は1972年にもアルゼンチンGPとフランスGPで2勝し、1972年7月のドイツGPでの事故で退役するまでに計8勝した幸運のスーパーマシンだった。


キットについて

 タイレル003の構造は ロータス49を始祖とする3リッター・フォード・コスワース・DFVエンジンが後部バルクヘッドにむき出しで直結され、リヤサスペンションがエンジンに懸架された構造をそのまま踏襲している。
 エブロのキットでは このあたりの緊張感が素晴らしい雰囲気で再現されている。今回はニューキットレビューということもあり、黒のプラグコードを追加した以外は全てキット部品のみで組み立てていて、ファンネルカバーもキットの透明部品を使ってみた。
  前部ハマーヘッドノーズは取り外し式で ラジエターがモデル化されている。前後のサスペンションもよく再現されている。
 また、ウインドースクリーンは003用以外にもう1種入っていて、002 フランソワ・セヴェールのマシンも 作り分けることができる。
 タイヤパターンのモールドも更に秀逸さを増し、タイヤのGOOD YEARの文字とブルーのラインは最初からタンポ印刷されていて 親切だ。

   


ボディ部品と上部カウル。カウルは2種類入っている。 

デカール (イタリア カルトグラフ製)

ノーズ、ウイング部品

サスペンション メッキ部品


シート、排気管、タイヤホイール


排気管、ブレーキドラム、タイレル用のエンジン専用部品

製作の注意点

 製作は説明書に従って順序通り組んでいけば、それほど難しくない。が、それでも 初心者には難しく、ある程度の経験が必要となる。
 また、細いメッキ部品どうしを接着する箇所も多いので、接着場所のメッキをカッターナイフの先端であせらずに丁寧に剥がすことが必要だ。

 成型時の離型油残りは かなり改善されている。念のため、組み立て前に部品ランナーを洗剤でよく洗うか、Mrカラーのシンナーで ごしごしと拭いておくと安心だろう。
 
 組み立て説明書は 接着指示の矢印の指し示す具体的な接着位置が把握しづらい箇所もある。
 また、一つの図の中で工程が完結できるように図が改善はされているが、言葉が少なく、部品図だけで表現されているので、その図中での組む順序も注意が必要なポイントとなる。説明書にも強調して書かれているが仮組は必須だ。
 
 もう一つの注意ポイントはモデルの垂直,水平,平行といった基本アライメントで、うかつに組むと、誤差が重なって、平行がとれなくなったり、部品の取り付けピンと穴間隔が合わなくなってしまう箇所がある。
 最後に取り付くウィングが傾くことがないように、また、4輪がきちんと接地するようにと、各所で充分な注意を払いながら 歪まないように 仮組を繰り返して組んでいく必要がある。 

製作

 それでは、製作に入ろう。
キットの説明書は 後部ウイングと ハマーヘッドノーズの組み立てから始まっている。
 レーシングカーモデルの場合、まずはボデイを塗装しないことには先に進めない。       
説明書を最後まで読んで、ボディ色になる所はできるだけ接着して一体にしてから、塗装するとよい。

ウイングとノーズの組み立て

(1) ウイングは2枚が平行になることが重要。
 片側の側面部品を基準に2枚が平行になるように注意深く組んで、流し込み接着剤で仮固定し、もう一方の側面部品を組みつけ、平行度をもう一度確認してから、本接着する。


       
 ノーズは下の写真のように、左右のウイングタブを箱絵のように上げた状態にしたかったので、C2,C3を左右逆に使った。(右図)

ボデイの塗装

 ウイング、ノーズ、上部カウル、モノコックボディ上部品、モノコックボディ下部品を 同時に塗装する。 
 ダークブルーにはタミヤカラーのTS15ブルーが指定されている。 今回は Finisher's カラーの ブラバムブルーを使ってみた。  
ボディの塗装には ボディを「馬」に乗せて少し浮かせてやり、吹き付け塗装するとやりやすい。「馬」は かまぼこ板とプラモキットの下箱の段ボール紙を切ると簡単に作れる。



 デカールを貼り、クリアーを吹き付けて保護すれば ボディ塗装は完了となる。


モノコックボディの組み立て

 ボディのモノコック構造は、上部内殻部品、下部外殻ボデイに部品分割されている。
 フロントバルクヘッド、フロントサスペンションを挟み込んでモノコックボディの形になる。
 [第3図]にまとめて書かれていて 図だけではわかりにくいので、組む順番を詳説しよう。 

 ①フロントバルクヘッドをユニットに組み立てた後、塗装する。(下のような形になる。)

② ペダルをユニットに組み立てて塗装する。


③ 上部内殻部品の切欠きにペダルユニットを接着する。(右)
④ フロントバルクヘッドユニットを下部外殻ボデイにしっかりと接着する。(左)
⑤ フロントサスペンション部品H6を下部外殻ボデイ上の切欠きにセットする。

⑥ 下部外殻ボデイに上部内殻部品を流し込み接着剤でしっかりと接着する。



 フロントバルクヘッドのラジエターE13とH3部品をH1,H2で挟み込んで説明書[第4図]通りに組んでいくが、 フロントサスペンション下部部品H41,H7をメッキ部品H1,H2のピンで同時に接着固定するようになっているので、あらかじめ、ピンのメッキをカッターナイフで剥がしておこう。
 この後、リアバルクヘッドD24を取り付けると、モノコックボディ構造がしっかりしてくる。
 フロントアップライトとサスペンションスプリングを取り付ける。(下写真 前方部)

 モノコック後部は下の写真のように組み立てるのだが、ここで注意がある。環状ロールフープH25の4個の取り付け穴と,モノコック後部品B4とD13の各2本のピンの位置が合うように、仮組をしながら、B4とD13をモノコックボディ後方左右に接着する必要がある。
 また、バルクヘッドの環状ロールフープの支柱H26とH27は左右逆に使った方がしっくりと合うようだ。
 オイルタンクと、ハンドル類[第6図]は壊しやすいので、最終段階で組み込むようにした方が良いだろう。 
 

  

ここまでで完成したモノコックボディ部分

エンジンとミッションの組み立て

 エンジン、ミッションは 説明書にそって丁寧に工作し、塗り分けていけば 難なく完成する。
 エンジンとミッションの取り付けも精度がよい。
ちなみに、エンジンのファンネルユニットは、この段階では取り付けず、全体完成後に接着すると楽だ。


 平行アライメントが重要なので、ここで、エンジンを先にボディ底面に2.6mmのビスで取り付けてしまい、以後はボディの底面を基準にリアサスペンションなどのアライメントを取って行くとよい。 

 リアサスペンションと ウイング支柱を 胴体底面を基準に取り付ける。そうすると、4輪がしっかりと接地し、ウイングをボディに平行に接着しやすくなる。

 左右のエキゾーストパイプを組み立てる。塗装は黒艶消しにブラウンを少し混ぜている。



 胴体底面を基準に リヤサスペンションを組みつけ、エキゾーストパイプを取り付ける。



 ラジアスアームを取り付ける。



 バルクヘッドに結合されたエンジンにラジエターパイプを配管するが、精度が非常に良いので楽だ。
2個の後部オイルクーラーの取り付けは、接着面積が非常に小さいので、平行に取り付くまで、マスキングテープなどで仮止めしておくといいだろう。
また、計器板、ハンドル、シフトレバー、オイルタンクを取り付ける。ここまで来るとボディは完成。
複雑な曲線のラジエターパイプ


完成したボディ部


最終組み立て

 タイヤはGOOD YEARの文字とブルーのラインが印刷済みで、パターンの彫刻も克明だ。

 タイヤを取り付けた時に4輪がすんなりと平行に接地すれば大成功だ。
 
座席はセミグロスで塗装した。
シートベルトはデカールが用意されていて、シートに貼るように指示されているが、デカールのままでは薄くて使いにくい。筆者は手近の透明クリアファイルにデカールを貼りつけ、それをはさみで切って使った。





 エンジンまわりのハイテンションコードは webモ2013年7月号のニューキットレビューLotus49の記事 を参考にぜひ追加してみよう。イグニッションコイル部から出る8本のハイテンションコードには0.56mmの黒ビニールコードを使った。後はエンジンのヘッドカバーの穴に入れて配線するだけなので、簡単に追加できる。


 8個のエンジンエアファンネルをエンジンに取り付けた後、透明のエアファンネルカバー部品の網目にゴールドでドライブラシして、手工芸用のボンドでエアファンネルに接着する。
手工芸用のボンドは乾くと完全に透明になるので、汚さずに接着でき使い易いのでお奨めだ。
 その後にウイングを地面に平行になるように取り付ける。

 そして、最後にカウリングをボディにかぶせて、メタル製のミラー支柱を慎重に取り付ける。

ハイテンションコードを追加すると精密さが増す。
ファンネルカバーはキットの透明部品にゴールドでドライブラシして使っているが、これでも充分な実感となる。



メタルミラーは慎重に取り付けよう。接着は瞬間接着剤をつまようじの先につけて。


完成

 最後にボディには保護を兼ねて実車用のカルバナワックスを柔らかい布で軽くかけておくと、研ぎ出しをしなくても、輝きと艶がいつまでも保たれる。 参考までに筆者は WILSONのノーコンパウンド 固形ワックスでプロックス スーパーという品種を使っている。

 完成した雰囲気はいかがだろうか。
初期のタイレルのハマーヘッドノーズは新鮮で、個性と輝きがある気がする。
  エンジンからリアウイングにかけての緊張感も良いと思う。 
 003はメタルのバックミラーがアイポイントになり、精密感を醸し出す非常によいアクセントになっている。 
 エブロの1/20のF1レーシングカーシリーズは かっちりとした設計と 開発者のこだわりが感じられて 面白い。 少し経験のあるユーザーには適度な難易度と 組み立てる際のメカニック感を存分に味わえる。
   課題は組み立て説明書で 実車の部品名称が無いので、次作には 一部でもよいので 実車部品名称を入れていただくことを希望したい。超F1マニア ならばいざしらず, 今組んでいる部品が実車で何という部品なのか知ることができると 更にプラモ作りが楽しくなると思う。
 
 「知る楽しさ」、「調べる楽しさ」を味わえるとプラモデル作りを更に楽しむことができる。
 弊誌のビンテージガレージコーナーで紹介している欧米プラモメーカーのCARモデルの組み立て説明書には 古くから、実車の部品名称があり、教育的側面も持っている。
  カーモデルファンを育て、完成までのモチベーションを維持する「プラモデルを組み立てる楽しさ」の更なる提供も今後のエブロの活動に期待したい。







  Home>Tyrrell 003 1971 MONACO GP (エブロ 1/20)

Vol.75 2014 November.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

「webモデラーズ について」 「広告のご出稿について」

製作記事


TOTAL PAGE


NEW KITレビュー