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誌上個展

   レッド・オクトーバーを追え!
(ドラゴン 1/350)

by Windy Wing 2013

 今回は1990年公開の映画「レッド・オクトーバーを追え!」に登場する潜水艦をご紹介します。

<ドラゴン 1/350 タイフーン級原子力弾道ミサイル潜水艦>



 原作者のトム・クランシーは軍歴のないジャーナリスト出身です。したがって、「世界の艦船」と「航空ファン」の3行コメントみたいな蘊蓄を駆使して兵器類や艦船行動を微細に描写する一方、物語全体の筋立ては、いささか子供っぽく進行してゆくギャップに戸惑いを感じなくもありません。

 そんな設定の中で、本作の主人公たるソビエト連邦ミサイル原潜「レッド・オクトーバー」はタイフーン級よりも全長を44フィート長くしてSLBMの搭載数を26基に増やし、さらに磁気水力推進システムを両舷に装備して5mほど拡幅した結果、実に「おおすみ」などの海自輸送艦を越えるサイズになっています。
 驚くべきことに、この巨大な艦船が映画の中では500フィートのウォーターライン・レプリカで再現されています。このような贅沢はもはやCGが横溢する今日の映画製作では望むべくもありませんが、当時は「レイズ・ザ・タイタニック」など、胸躍るシーンを巨大艦船模型が演出してくれていたものです。

<ドラゴン 1/350 ロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦ダラス>




 監督は「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン。冷静に見れば、例えば前述のクライブ・カッスラー原作「レイズ・ザ・タイタニック」などの方が海洋活劇としては破天荒で面白いのですが、実際に映画が始まってしまうと、観客に深く考える暇を与えずにたたみかける手腕は明らかに「ダイ・ハード」の流れを汲むものです。  レッド・オクトーバーに対峙する米国の攻撃型原潜は「SSN700ダラス」と設定されていますが、劇中艦は外見上セイル・プレーンを有するロサンゼルス級前期建造艦であるとしか判断できません。実際の撮影では、複数のSSNが現場の運用状況に応じて使用されていたのではないでしょうか。




 こうして同スケールで並べてみると、タイフーン級のあまりの大きさに、あのロサンゼルス級がタグボートに見えます。もっとも、タイフーン級の基本構造はロサンゼルス級2本をガムテープで縛り上げて外殻を張り付けたみたいなものですから、それも道理ではありましょう。  その撮影を担当したのは、これも「ダイ・ハード」組から引継ぎのヤン・デ・ボンですが、カーチェイスはおろか、最初の数カット以外には車が出てきません。しかし、そこは動体撮影の天才、ひとたびカメラを取ると、荒れる海上から各艦の表情を見事にスクリーンに写し込んでいます。

<ドラゴン 1/350 アルファ級攻撃型原子力潜水艦V・K・コノヴァロフ>



 映画の中では与太郎役を余儀なくされたアルファ級ソ連原潜コノヴァロフのヴィクトル・ツポレフ艦長も、原作ではダラスのバートロメオ・マンキューソ、そしてレッド・オクトーバーのマルコ・ラミウスらに互して、高度に戦術的な操艦を指揮します。
 
劇中、この3隻が入り乱れる海中シーンをILMは「ドライ・スモークで撮影しきった」と喧伝していますが、その手法はすでに20年前に東宝が「緯度0大作戦」で完成させていたものです。また、ポストプロダクションでのCG修飾もまだまだ未熟な時代で、魚雷航跡などは当時からB級SFの域を出ていませんでした。トニー・スコットが「クリムゾン・タイド」の海中戦闘シーンにプール内実写を選択したのは、この失敗をふまえてのような気がします。




 こう分析してしまうと、本作が有名な割には淡泊であるような印象を与えてしまうかもしれません。しかしそこはエンターテイメント王国ハリウッドの作品、鑑賞し終わっても後悔させないサービス精神は邦画の遠く及ぶところではありません。  もしも時間があれば、ぜひレンタルショップに出かけて、原作本ともども本作を探してみてください。劇中、目を閉じれば、ダース・ベイダーの声が聞こえるオマケつきです。


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