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飛行機プラモデルの製作

  プラモ進化論 番外編
零戦 (エルエス 1/75(1/72クラス) 

  by  松戸のタカ

 こんにちは松戸のタカです
 今回は番外編ということで、かのエルエス零戦に関しての記事です。
エルエス1/75(後に1/72classと表示変更)零戦シリーズを手にした方は少なくないと思われます。
 私も少年期に何機か作成したものです。かつてはこのサイズの零戦としては評価が高く、町の模型店というか文房具屋など(当時は文具屋もプラモを販売していた)で一番入手しやすかったのがエルエス製零戦だったと記憶しております。後に知ったのですがそれらが約30年間にわたり販売され続けていたとはたいそう驚いたものでした。

 当然といえば当然なのですが、その長い期間においては「箱絵」、いわゆるボックスアートも変わってきております。今回はプラモそのものではなく「絵」について、その変遷をたどってみました。

縄文文化に例えたわけではありませんが前期、中期、後期、晩期にわけてみました。


前期

1964年ごろ
零戦21型、52型が発売されました。正確には「二一型、五二型」と漢字表記のはずですが、そんな細かいことにこだわる方はまずいなかったはず。大体購入対象者は「子供たち」だったからそんなことにこだわる必要はまずありません、というかそんなことは知らない方が大多数だったのでしょう。


「オール可動式」と高らかに歌い上げ?右下には可動部が列記されています


上には「グァム島から帰還した機体と同型機種」と当時グァム島で発見された零戦(昭和39年)のことが書かれています


 21型は整備中の零戦を描いたものです。これに関してはご存知の型も多いと思いますが、もととなった写真が存在しており、それをそっくりそのまま描いたものです。
 52型は勇ましく戦闘中の姿で機銃からは弾丸が発射されており、緊迫感に富むものです。


箱の横にはローマ字で可動部が示され、また当時のラインナップが書かれています。知らなかったのですが飛竜もかなり初期から販売されていたのですね


 図の正確さは今一つかもしれませんが、この独特の画風は現代のボックスアートには存在しない躍動感、ストーリー性があります。一体この感覚は何なのだろうと考えていたら、一つの結論に辿り着きました。
 それは昭和30年代後半に流行っていた戦記絵巻物のスタイルだということです。この時期に少年雑誌は戦記物が多く、挿し絵などでこのようなダイナミックな絵がしばし見られたものなのです。これらの箱絵の絵は一つの静止した「絵」ではなく連続したストーリーの中の「一場面」なのです。
 おそらく当時の少年たち達はこの箱絵を見て零戦の活躍する姿を夢想しつつキットを購入し、組み立ててブーンと振り回して自分たちで空想の世界にはまっていたのではないかと想像されます(私にも身に覚えがあります)。


(講談社発行 少年マガジン昭和37年7月8日号表紙より引用)
昭和37年(1962年)の少年マガジン表紙。当時は戦記物が流行していたようです(これって米軍に鹵獲された零戦の写真からとったものですよね?)


(講談社発行 少年マガジン昭和37年7月8日号より引用)
このような特集がよく組まれていました。この画は梶田達二氏によるものです(先ほどの少年マガジンです)

 当時の我々にとっては正確性よりも「いかにカッコ良かったか、想像力をかき立てるか」が大事だったような気がします


中期

1960年代後半~70年代?
 中身は変わりませんが箱絵は一新されます。21型、52型とも以前のものよりリアルな絵に変化しております。それでもまだ絵巻物スタイルの名残は残っています。この版の最大の特徴は背景がモノトーンになったことではないかと思っております。21型は黄色調、52型はなんと赤色調となっており、現実にはあり得ない色彩となっています。ところがこのありえない背景色が全く違和感なくうけいれられたのは作画者の優れたセンスなのでしょうなあ。
 私がはじめてエルエス製零戦に触れたのは、この版なので個人的には最もなじみがある箱絵です。





21型の優美に飛翔する姿。52型の翔鶴型?空母から発艦しようとする姿は未だに惹きつけられるものがありました。
 小さくT.OGAWAとサインがあります。これは小川俊彦氏によるものなのでしょうか?


 また、この版までは説明書が懇切丁寧なものであり、零戦本体に関する解説書も実に細かいものでした。当時の私はそこに書かれている説明、性能諸元をアタマに叩き込んだものでした。
 ちなみにこの版の途中でミニベビーモーターを装着することによりプロペラを回転させることが出来るようになったと同時に初期の魅力の一つであった脚引き込みギミックは廃止されたのでした。


ミニベビーモーターでプロペラが回転できるようになったことを側面に絵が描かれています

 この脚引込みギミックが廃止されたこの頃から、可動部位が多い=精密さに欠ける といった風潮が出てきたように覚えています
 エルエスもモーターライスによる「楽しさ」を求める一方、「精密さ、リアルさ」を追求する風潮が出てき始めたのではないかと勘ぐっております。
 まあミニモーター搭載ブームも一時的なものに終わったような気がします


 脚引き混みが廃止されたのは昭和45年(1970年)ごろのことです。発売6年後のことであり、その後20年以上販売が継続されたことを考えると脚可動ギミックが存在したのは比較的短かったのですね(ちょっと意外)


後期

 この時期はハセガワから新たに零戦各型が一斉に販売されエルエス製は古くなり、販売実績は低下したのではないか?と思われる時期です。
 箱絵が変わりました。この頃私はプラモ作成から遠ざかっていたので一体いつ箱絵が変わったのかは知りません。しかし今回の変更は「手抜き」と思われても仕方がないようで、21型は「前期」に描かれたものを復活させたものの周囲のロゴを少し変えただけ。52型に至っては「中期」のゼロ戦本体の絵はそのままに背景を単純にしただけのものでした。


まあ原点に戻ったとも言えなくもないか


手抜きにしか見えないのは私だけ?水平尾翼の上に日章旗の一部がわずかに見えます(このくらい修正して欲しいですね)


 21型はともかく52型にはすごく違和感がありました。なぜかというと、その「角度」なのです。
中期の絵は尾輪が浮き上がり、「まさに発艦する場面」であるのに対し、後期では尾輪が地面についた3点姿勢に角度が変えられているのです。オリジナルの背景を隠すため翼〜胴体から下は無地白色へと強引な処置が施されています。そのためか非常にバランスが悪い印象であります

 正直少しを面食らった感があります。しかも模型自体は変わらずとも、かの懇切丁寧な説明書が、ものすごく簡略化されていたのです。これらは進歩でなく退化といってもいいのではないでしょうか??


晩期

~92年
 これもいつ頃変わったのかは知りません。今度は新たに絵が描き換えられました。21型は空母赤城の上空を旋回する図です。図はかなり精密なものとなり絵画的でもあります。「現代のボックスアート」と言ってもおかしくない完成度です。「前期」のものが子供向けとすると、晩期のものは「大人も対象とした」と言ってもいいくらいの違いがあります。なかなかの完成度であり結構お気に入りです



落ち着いた絵柄となっています


 最晩期にはさらに少し変わります。絵柄その物は変わりませんが箱そのもののデザインが変わり、ロゴがゴシック調から明朝体に変わり落ち着いたものとなります。やはり対象者年齢が上がってきたのではないでしょうか?


エルエス製はこれが最後になります。ある意味完成形ともいえるのでしょうか?このままアリイに引き継がれていきます


 52型は戦闘中のシーンに書き換えられました。21型の優美な?ものと異なり戦闘中の荒々しい図となっています。ただ個人的には何だかバランスが悪いような感じがあり、歴代エルエス零戦なかでは好きにはなれない絵柄でした


52型はアリイ製しか所有していないのでこのパッケージでのお披露目です

 これ以降エルエスは倒産し、アリイに引き継がれ、しばらく販売は続けられていたようですが、いつのまにか姿を消してしまいました

説明書の違い

 さらに加えれば今で言うインスト、いわゆる説明書の違いです。早期のものは大きな紙に目一杯、これでもか!というくらいに零戦の解説書がついています。
 これだけでも一読する価値があるくらいです。現代のプラモでこれだけ詳細な解説文が付属しているものは無いように思えます。これは中期も続きました。ここで得られた知識を元にどんどの見識?を広めたものです。プラモ購入とともに機体その物の知識も得られるなんて一挙両得でした。

 ところが後期から簡単な組み立て図(しかも小さい)のみになり解説はなくなり、晩期は用紙が大きくなっただけで解説は皆無でした。


前期は箱よりもはるかに大きな説明書。一部英文もあります。これでもか!というくらい詳細な説明です



後期は単なる組み立て図で解説なし。老眼にはキツイ小ささ!


晩期は紙のサイズは大きくなりましたが内容としては見るべきものはありません


 こうやって眺めていると発売当初は「少年」をターゲットとしていたものが、次第に幅広い年齢層をねらうようになり、後半からは製品自体の旧式化?と起死回生を狙った?もしくはやる気を無くした?エルエスのあがきのようなものが見えるような気がしてきます。


 現代の「箱絵」は「箱絵」でなく「ボックスアート」となり「説明書」は「インスト」となっています。(ただし説明書は「絵」ほど進歩はないような気がしますが)。ボックスアートはより精緻なものになりエアフィックス社のようにCGを採用しているところもあります。
今後もCGが占める位置はますます増えていくことでしょう。筆の跡が認められる「絵」と実物のようにも見える「現代の絵、もしくはCG」どちらが良いのかはわかりません。ただ私のように「手書きの絵」で育った私には、どうしても「絵」を求めてしまうようです。


 1970年台からは精密化を目指してか可動ギミックは無くなっていきましたが、あの楽しさは忘れがたいものがあります。またワクワクさせてくれた箱絵も懐かしい限りです。  できれば最初期の箱絵で説明書も初期のもので可動ギミックを復活させて数量限定で良いから復活させてくれないかなあなどと思ってみたりしたのでした(まあ無理だろうなあ)


注 (webmodelers編集部から 最新情報)
 
なんと零戦21型の1/72 オール可動キットがエフトイズ(プラッツ扱い)から5月末に1000円で発売されるそうです。部品は塗装済みの組み立てキットで、食玩の域をはるかに超えている様子。もちろん翼端も折り畳み可能。
詳しくは 下記プラッツのサイトページをご覧ください。

エフトイズ 1/72 フルアクション 零戦21型 [FT60305] 税込1,080円
http://platz-media.com/blog/2017/03/09/a6m2_zero_ftoys/



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