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特集 攻撃機

  九六式陸攻 元山航空隊 甲空襲部隊雷撃隊 第一中隊第一小隊第三番機 1941年12月10日 (マレー沖海戦時 ハセガワ 1/72)

  by 寿

・マレー沖海戦のこと。日本海軍の攻撃機のこと。

 二次大戦の太平洋、日本の視点で白眉とされている戦闘はいくつかあるけれどその筆頭は間違いなく真珠湾攻撃で日本のみならずアメリカでも良く知られた闘いでもあります。まぁそれぞれの国で受け止められ方は真逆なんですけどそれはしゃーない。
 ただその陰にあって日本ではいまいち認知度が低いのがマレー沖海戦であります。各国の軍事専門家に真珠湾攻撃以上の衝撃を与えた(っつーか真珠湾はタラント空襲の模倣ってのが一般的な評価なんだけど)と言われる闘いなんだけれど一般の人はまず知らないもんね。「真珠湾」の方が有名すぎるってだけなのかもしんないけどこれはアメリカが激怒した出来事ってのが大きいんだろうな。



 一方のマレー沖海戦の相手、東洋艦隊を送り込んだイギリスの首相チャーチルはこの海戦の敗北を「二次大戦中で起きた出来事の中で最大級の衝撃の一つ」って言ってる。議会に無理言ってねじ込んだ艦隊が壊滅したってのもそうだろうけど、まだイギリスは日本海軍と同じく艦砲による艦隊決戦思想の持ち主が多かったんで(ご当人のチャーチルも多分そう。元海軍大臣だし)「たかが航空機に戦争の帰趨を定める戦艦が」ってのもあったんだろうな。
 ひるがえって当の日本海軍はと言えば、陸上基地からの航空攻撃のみで戦艦郡を撃滅するという戦史として大きな転換点を演出したにも拘わらずその本来の意味に気付かぬまま大戦の中盤辺りまで巨艦巨砲主義の呪縛から離れる事が出来なかったというのは何なんだか。



 なんせ何せ真珠湾攻撃のときはおろかミッドウェー海戦の辺りまで航空機隊は露払いで切り札は大和を筆頭にした戦艦群だったしね。本格的に航空主体にシフトしたのはアメリカが本腰を入れて機動部隊を作り上げてからだものなぁ。最初に作り上げたのは日本の筈だったのにリサーチと自己分析の得意なアメリカに逆ねじ喰らわされて本質に気付くというのも皮肉なもんです。
 まぁ日本の国力からすれば新規の航空機部隊だけってのは無理があったから旧式戦艦群もかき集めてようやくって部分もあったし仕方がないと言えば仕方がないのかも。航空機ってお安めだけど脆弱だし戦艦は頑丈だけと国が傾く程にお高いしね。せっかく作った「超高価な物件」を無視する訳にはいかないじゃん?



 そしてやっぱこの一件は停泊中の船じゃなくって作戦行動中ってところがミソ。タラント空襲もそうだけど「動いてなかったから沈められた」ってのが世の巨艦巨砲主義者の最後の拠ん所だったからね。「高速で動いてる戦艦に魚雷なんて当たらねーよ」ってのがその理由だったんだけど時速60kmそこそこの船と200kmを楽に越える航空機との速度差を考えれば儚い願望のような気もするんだけどなぁ。

 まぁ動いてる目標に命中しづらいのは確かなんで荒唐無稽な妄言って訳でもない。でも命中率は至近距離から撃つ魚雷の方が艦砲なんかより何倍も大きいんでもっと警戒しても良かったと思うぞ。一応イギリス艦艇も高角砲とかポンポン砲とかで対空艤装は固めてるけど旋回速度や発射速度も低ければ故障も多く、ましてや近接信管なんて望むどころか発想すら無かった状態。かてて加えて援護の戦闘機も皆無となればボコられてもむべなるかなです。



 でもこの辺りは下衆の後知恵ってやつで責めていいところじゃないですね。誰しも実証されてないものを信じるのはひじょーに勇気が要りますし「ヒコーキがこんなに強いとは知らんかった」訳ですので。

 ちなみに後日、負けの込んだ日本は大和の沖縄特攻で似たような懺劇を自ら演ずることになるのですが歴史の皮肉と言うか人を呪わば穴二つと言うか・・・・やったものはやり返されちゃうんですねぇ。(まぁ仕返ししたのはイギリスじゃなくって盟友のアメリカなんですけれどもね)



 しかし鈍重な貨物船相手ならともかく速度も運動性も桁の違う戦闘艦相手に双発攻撃機のみで雷爆撃ってのもどうよ?しかも陸上から外洋に向けて機動部隊に渡洋攻撃って世界基準でもちょっとない。いくら長距離を飛ぶことが出来たとはいえ海岸線の見える空域ならいざ知らず外洋で機位を見失えば会敵する以前に遭難の恐れもありました。電波方位機も在るけれどそれだって完全って訳じゃないし ただ飛ぶだけでも命を賭した雷爆撃行です。でもそれだったからこそ戦史に名を刻むことが出来たんだろうなぁ。
 ちなみに多発機で渡洋雷撃が好きな日本は対戦艦用に「M」と呼ばれる2トン(!)航空魚雷を開発しそれを積む為に四発の深山を作っちゃった。二式大艇にもその構想があったようで、さすがにこっちは800キロの航空魚雷だけどそれでもなぁ~。偏執的というか何と言うか大概にせいやって感じですよ。まぁ、どれもこれも途中で頓挫しちゃったけど。



 決戦兵力である戦艦の不足を航空機の攻撃力で補填しようとし、その実逆に世界的に航空機の有用性を認めさせた挙げ句一夜にして戦艦そのものを時代遅れにしてしまうとは。お陰で世界の航空機万能論者は大喜び。当事者達もそこまで先読みしていた訳でもないよね。もしそうだったらドクトリンそのものを書き換えてるだろうし。
 すべからく思った通りに事は運ばないもんだし、運良くそれが頭に当たったら今度は状況そのものが変化して予想外の未来が訪れようとは。いやはや世の中はままならんもんじゃのう。




・そんな訳で今回は移動中の高価な目標を世界で初めてお安い物件オンリーで殲滅せしめた魅惑の一翼、九六式陸攻であります。すいませんね今回は前振り長くって。「えー、マレー沖なら一式ぢゃねーの」って言われそうだけどいいの、こっちの方が好きなの!ほらほら、すらっと長い主翼が如何にも「長距離攻撃機」って感じでしょ?
ずんぐりむっくりの一式も悪くないけれどこのスマートさは素敵です。もー抗い難い程に。フランスのダッソーも「美しいものほど良く飛ぶ」って言ってるし。
PS:迷子のお知らせです。寿作九六陸攻の途中経過写真をご存じの方、ただちにご一報下さい・・・・あ~もう、どこいっちゃったんだろーなーもう!(これ読んでるあなた「またか」って顔しない。パソコンのフォルダは広大なんだよ)

・写真コメント
 今回作った機体はコレ、小池先生のすばらしいボックスアートになっているヤツそのものずばりであります。敵艦の激しい防御弾幕。 水柱の林立するただ中を海面を這うかのような超々低空で突入し雷撃を敢行する九六陸攻。う~ん、なんてかっちょええ。シビレます。





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