Home  > Chance Vought F7U-3 “Cutlass” 製作記(Fujimi 1/72)>特集 フジミ>2020年7月号

特集 フジミ

Chance Vought F7U-3 “Cutlass” 製作記
(Fujimi 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)


Vought F7U-3 Cutlass (1/72) Fuimi Box Artより

 研究機や試作機などを除くと、実機の生産機数が少ないとプラモとしてキット化されるケースも少なくなるのが一般的である。そういう意味では、今回取り上げたチャンス・ヴォート F7U カットラスもそれに当てはまるかもしれない。かってレベルが半端スケールで本機をキット化していたが、その後キット化するメーカは無かった。それが1987年、1/72の標準スケールでフジミからリリースされたのである。フジミはその後偵察型まで出してくれた。恐らく、米海軍の艦載機ファンくらいしか振り向かない機体であるにもかかわらずである。 しかしながら、繊細なパネルラインが施されたこのキットは、1/72の決定版となった。あれから30年以上が経つが、現在も新たなキットがリリースされないことを考えると、現在もその地位は変わってないと思う。最近では店頭で見かけなくなったキットであるが、たまには再販してほしいと考えるのは筆者だけだろうか? そんな思いもあって、ストックにあったフジミのキットを30年ぶりに引っ張り出し、製作してみた。


F7U-3 Cutlass Fujimi (1/72)

実機紹介

 チャンス・ヴォート社というのは、戦前はF4Uコルセア、そして戦後は最後のガンファイターと呼ばれたF-8 クルーセイダーやA-7 コルセアIIを産み出した老舗の航空機メーカの一つである。そのチャンス・ヴォート社が、第二次大戦の終戦直後に海軍から発出された高性能艦上戦闘機の開発提案要求に応じて生まれたのが、このF7U カットラスである。試作機XF7U-1は3機が製造され、初号機が初飛行したのが1948年9月29日のことである。その形状は当時としては斬新で、鋭い後退翼に双尾翼を配した、無尾翼の双発戦闘機であった。同社の前作のジェット戦闘機、XF6U-1 パイレートからは想像もできないスタイルと言える。もともとアフターバーナー付きのエンジンを搭載する計画であったが、アフターバーナーが間に合わず、推力不足のエンジンでの試験に加え、不具合も多発し、結局3機の試作機はすべて事故で失われる結果となった。 そのため14機生産された初期量産型のF7U-1は、試験・評価に充てられ、改良型のF7U-2は生産がキャンセルされる羽目となった。そのためチャンス・ヴォート社は、並行して進めていた大幅改良型のF7U-3の生産に注力することとなった。F7U-3は若干大型化し、エンジンの推力もアップされた。また空母での運用に不可欠な離発艦時の視界の確保や、揚力の向上と言った技術的課題に応えるため、機首部の形状変更や前脚を若干伸ばすなどの変更が加えられた。そして1954年10月、、F7U-3はやっと最初のカットラス実用飛行隊となるVF-124に引き渡されたのである。


F7U-3 Cutlass Fujimi (1/72)

 F7U-3は結局180機が生産され、その後AIM-7Aスパローミサイルや戦術核兵器の運用能力を付与されたF7U-3Mが98機、写真偵察型のF7U-3Pが12機生産されており、試作機の3機のXF7U-1、初期量産型の14機のF7U-1と合わせ、総計307機で生産を終えた。 また実戦部隊での運用期間も短く、1957年を境に実戦部隊から姿を消している。こうした短寿命で終わった原因は、カットラスの斬新さからくる技術的課題だけではなく、当時の空母側の課題なども一因となったようだ。


F7U-3 Cutlass Fujimi (1/72)

製作

1. はじめに
 大戦後の米海軍の艦載機というと、朝鮮戦争当時のダークシーブルーの機体や、その後現れた上面ライトガルグレー、下面インシグニアホワイトの標準塗装の機体が思い浮かぶが、一部に無塗装で使用されていた機体もあった。今回のカットラスもその一つで、退役前に標準塗装を施された機体も現れたがその数は少ない。今回の製作にあたりどちらを選ぶか迷ったが、キットにVF-124の標準塗装機のデカールも入っていたので、やはり好みの標準塗装で進めることにした。作業を開始する前に資料もいろいろ調べてみたが、やはり標準塗装機の写真は少なかった。そのため、機体の考証にはあまりこだわらず、インストの塗装図に基づいて製作することにした。  キットはコクピット部分を含む前胴部と、それ以降の主翼を含む中後胴部とに分かれている。これは写真偵察型のF7U-3Pとの部品の共用化を図るための分割だと思う。中胴部にはインテイクダクトを組み込み、エンジン圧縮機のファンが覗けるようになっており、1/72スケールでここまで再現するメーカの意気込みも感じられる。工作に入る前に仮組をしてみたが、大きな問題も見つからなかった。では順を追って見ていこう。


2. コクピット
 まずコクピットから始める。コクピットは簡単な構造で、座席も含め6ピースの部品で構成されている。メインパネルとサイドコンソールのデカールが付いているが、キットのパーツには細かな彫刻もあるので、これにデカールを馴染ませるのも大変なので、塗装で済ませることにした。 座席にはシートベルトも彫刻されているが、彫が浅いのでここはエッチングパーツの残り部品などを利用してそれらしく仕上げ、取り付けた。(写真1)
その後、コントロールスティックを取り付ければコクピットは完成。(写真2)

(写真1) 射出座席

(写真2) コクピット

3. 前胴部
 前胴部はインテイク手前から機首にかけての部分で、コクピットと前脚収納部を取り付けて組み上げる。この機体は見るからにお尻が重いので、胴体パーツを左右接着する前に機首部に錘を入れておく。
前胴部の左右パーツの接着後は、コクピットの内部をマスキングし、コクピット部に防眩塗装(艶消し黒)を施した。(写真3)
また前脚収納部であるが、前胴部への組み込み前に内部をインシグニアホワイト(FS17875)で塗装し、汚れの墨入れも済ませた。(写真4)

(写真3) 前胴部上面
(写真4) 前胴部下面


4. 中後胴部
 中後胴部は、主翼と一体で上下パーツを接着する。キットでは主翼のフルスパンの前縁スラットと外翼後縁のエイラヴェータが別部品となっており、開閉の選択ができる。一方内翼後縁のエアーブレーキは、主翼と一体成型で閉状態となっている。折角なので前縁スラットと、後縁のエイラヴェータは動きを表現することにし、後付けにする。

 主翼の上下パーツを接着する前にいくつか作業がある。インテイクダクトの組み立て・塗装である。インテイクダクトは二分割のため、接着後接合部と内面を整形し、インシグニアホワイトで塗装した。そして黒鉄色に塗ったエンジン圧縮機のフロントフェイス部と接着し、胴体部下面パーツに組み込む。そして上から胴体上面パーツを接着すれば中後胴部が出来上がる。中後胴部上面、写真6が中後胴部下面、写真7がインテイクダクトを取り付けた状態を示す。また後胴部のエンジン、アフターバーナーの周辺には冷却空気の取入れ用のインレットがいくつかあるが、開口されてないので僅かであるが彫り込んでみた。(写真8)

(写真5) 接着した中後胴部上面
(写真6) 接着した中後胴部下面

(写真7) インテイクダクトを組み込んだ状態
(写真8) エアーインレットの追加加工

 この後、中後胴部に2つの垂直尾翼を取り付ける。垂直尾翼は左右のパーツを接着するだけだが、両パーツの合いは良好。主翼への取り付け時に若干パテを使うところがあったが、ほぼぴたりと決まる。垂直尾翼の先端後縁部は薄くて尖っているので取り扱いには注意である。(写真9)


(写真9) 垂直尾翼を取り付けた中後胴部


5. 機体の組み立て
 全体の塗装は機体を組み立ててから行うので、まず前胴部と中後胴部とを接合し、最後に尾部を取り付ける。(写真10)尾部と胴体の合わせ目が若干合わない。尾部側を慎重に削り、段差を消す。その後はインテイクの先端部を接着するだけだが、接着前にインテイク先端部の内側をインシグニアホワイトで塗装する。そして接着後に接合部を整えれば、機体の組み立ては完了となり、作業は機体塗装へと移る。


(写真10) ほぼ組み上がった機体

6. 部品類
 機体の塗装に移る前に主要部品について紹介する。主脚は特に問題ない。脚柱をインシグニアホワイトで塗り、摺動部をクロームシルバーで塗る。これにハブをインシグニアホワイト、タイヤ部を艶消し黒で塗った車輪を取り付け、少し汚しを付ければ完了。(写真11) 
前脚は少し手を入れた。キットではモールドの関係でステアリング・ロッドが板状にモールドされているので、これを削ってプラ棒に置き換えた。また実機では脚柱根元に補強部材が付いているので、それもプラ材で追加した。塗装は主脚と同じである。(写真12)

(写真11) 主脚
 (写真12) 前脚

(写真13)はアレスティング・フックである。白と黒に塗り分けただけで、甲板と接触するフックの先端部は黒鉄色で塗った。 最後にウィンドシールドとキャノピー。(写真14)透明なプレキシグラスの部分をマスキングして下地に黒、仕上げにライトガルグレー(FS16440)を塗装した。1/72スケールでは窓枠も細く、塗装するよりマスキングの方が大変だった。

(写真13) アレスティング・フック
(写真14) ウィンドシールドとキャノピー

7. 塗装とデカール貼り
 組み立てを終えた機体の塗装手順としては、まず下面をインシグニアホワイト(FS17875)に塗って、境界面が少しぼかしになる様にマスキングして上面をライトガルグレー(FS16440)で塗っていく。勿論脚カバーや前縁スラットなど、機体に取り付ける部品は、同時に塗る。前述のウィンドシールドやキャノピーは、実はコクピットのマスキングを兼ね、機体に両面テープで貼り付け機体と一緒に塗装している。 やはり同色と言えども別々に塗装するとどうしても色の違いが出てくる場合がある。ここまで塗り終わった後は、適時マスキングしながら各部の色を塗っていく。前縁スラットの内側と機体の収納部は、艶消しのインシグニアレッド(FS31136)で、またレドームと垂直尾翼先端は、セミグロスブラックで塗った。最後に機体尾部を焼き鉄色に銀を若干加えて吹き付けてみた。
(写真15)が塗装の終わった下面の状態、(写真16)が上面の状態である。


(写真15) 塗装を終えた機体下面の状態



(写真16) 塗装を終えた機体上面の状態

 次にデカールを貼る。古いキットなのでデカールもそれだけ劣化している。しかし湿度を管理して保存していたこともあり、黄ばみは見られなかった。それでもやはり糊の劣化か、水につけても台紙からはなかなか外れない。いたずらに外そうとすると破れてしまう可能性があるので、とにかく緩むのを待った。 最終的にはうまくいったが、それほど数が多くないのに時間は随分かかってしまった。でもフジミのデカールは質が良さそうだ。写真17と18がデカールを貼り終えた状態である。


(写真17) デカールを貼り終えた前胴部


(写真18) デカールを貼り終えた機体下面

完成

8. 完成へ
 デカールを貼り終えた後は、半艶のスーパークリア―でオーバーコートし、タミヤのエナメルの黒と茶色の墨入れ用塗料でパネルラインへの墨入れとオイルの汚れなど、軽い汚しを加えた。そして車輪やアレスティングフック、排気口、前縁スラット、後縁のエイラヴェータなどを接着する。最後に両面テープで仮付けしていたウィンドシールドとキャノピーを取り外し、透明プラバンを切り出したガンサイトのリフレクターを取り付け、ウィンドシールドとキャノピーを木工ボンドで貼り付けて完成だ。 キャノピーは開状態で、エイラヴェータは少し下げ角を付けて固定した。注意しなければならないのは前脚で、キットのまま接着すると脚柱が地面と直角にならない。少し取り付け角度を調整し、脚柱が地面にほぼ垂直となるように取り付けた。(写真19)~に完成したカットラスを示す。

 部品点数はそれほど多くなく、組み上がるとしっかりとカットラスの姿を再現してくれる。とても素直なキットだと思った。どこかのメーカでF7U-1をキット化してくれないだろうか。生産機数は少なかったが、そのうちの2機は短期間ではあるがブルー・エンジェルスで使用された。流麗なスタイルのF7U-1でブルー・エンジェルスの衣をまとった機体はきっと美しいと思う。是非作ってみたいものだ。

(写真19)  完成したF7U-3 “カットラス”







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