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特集 NAVY & MARINES

Douglas F4D-1 “Skyray” 製作記(Tamiya 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)

Douglas F4D-1 Skyray 1/72 Box Photoより


 1998年、タミヤから1/48スケールのF4D-1 “Skyray”がリリースされたというニュースには、正直驚いた。それまでに私が手にしたスカイレイのキットは、リンドバーグの1/48とエアーフィックスの1/72のキットしかなかった。完成度の違いは一目瞭然である。そして1/48キット発売の1年後にはウォーバードコレクションNo.41として1/72のキットがリリースされた。一挙に1/48と1/72のスカイレイの決定版を手にすることできたのだから、米海軍機ファンとしては「嬉しい」の一言であった。但し不満がないわけではない。一応カラフルな3飛行隊分のデカールが用意されていたが、両スケールとも同じマーキングであった。F4D-1が所属した飛行隊はそれほど多くはなかったが、他にも魅力的なマーキングのものもある。せめてハセガワの様にデカール替え版もリリースしてもらいたかった。特に1/72はそうすべきだと思う。
 そんな思いで今回は1/72スケール版を製作した。どのマーキングを選ぶか悩んだが、1961年1月から約2年半厚木基地に駐留し、1963年7月1日に厚木で解隊の日を迎えた海兵隊のVMF(AW)-114 “Death Dealers”の機体にすることにした。1/72のキットを1/48のキットと比較すると、主翼の折り畳みや前縁スラットの展開といった選択肢はなく、それぞれ主翼に一体成型されている。またスカイレイの特徴の一つである後縁付け根のピッチトリマーも主翼と一体成型で、機外増槽に付く空中給油用受油プローブも省かれている。しかし1/72のスケールでこの価格なら全く問題ない。その他の部分は1/48版をそのまま縮小したようなキットで、子気味良く組み上がる優れたキットだと言える。



F4D-1 Skyray (Tamiya 1/72)

実機紹介

 Douglas F4D-1 “Skyray” は、米海軍艦上戦闘機で実用化された唯一の無尾翼デルタの戦闘機である。開発に着手されたのは未だ戦後間もない1947年のことである。この年の1月に米海軍は艦隊防空用の艦上要撃戦闘機の提案要求仕様書を発出した。これに応じダグラス社では戦時中から検討を重ねていた無尾翼デルタ機の構想を固め、社内呼称D-571という機体の基本設計に着手する。ダグラス社が何故無尾翼デルタ機を提案することにしたのかは、戦中の研究成果によるだけでなく、戦後ドイツの航空研究家リピッシュ博士のデルタ機に関する研究成果を入手したことが大きい。 そして風洞試験などを重ねながら、エドワード・ハイネマンを中心にD-571の設計を完了させたのが1958年8月のことである。この設計案に対し同年12月、海軍はXF4D-1の呼称で2機の試作機を発注した。ダークシーブルーに塗られた試作1号機は1950年10月9日にロールアウトした。しかし当初搭載を予定していたウェスチングハウス社製XJ40エンジンの開発が遅れ、試作機は推力の低いJ35-A-17エンジンを搭載してのロールアウトとなった。そしてロールアウトから3ヶ月が過ぎた1951年1月21日、試作1号機はエドワーズ空軍基地で初飛行に成功する。


F4D-1 Skyray (Tamiya 1/72)

 XJ40の開発の遅れから、XF4D-1はJ35エンジンで試験飛行を続けるしかなった。このため試験スケジュールにも遅れが生じ、やっと届いたXJ40も推力不足。結局海軍はXJ40を諦め、プラット・アンド・ホイットニー社のJ57-P-2を量産機に搭載する決定を下した。このためスカイレイの試験は量産初期ロット機も投入して実施され、部隊配備も遅れ、これが生産機数を少なくする結果につながっていく。J57は推力も大きくスカイレイの本来の性能を引き出したが、高空でのアフターバーナーの動作不良が発生し、インテイクダクトの形状変更などの改修が行われた。その結果スカイレイは本来の性能を取り戻したのである。 1953年10月3日、カリフォルニア州にあるノースアメリカン社の3㎞コースを4回フライパスし、平均速度1,212.7㎞/hという世界速度記録を樹立した。更に部隊配備後の1958年5月22日にはカリフォルニア州ポイントマグーで高度3,000m、6,000m、9,000m、12,000m、15,000mまでの世界上昇速度記録を打ち立てている。一方でAero13F 武器管制システムの装備によってスカイレイには全天候性能が付与された。スカイレイは固定武装である20mm機関砲4門の他、2.75in FFARやAIM-9Bサイドワインダーを搭載できるが、全天候下でのこれらのウェポンの射撃管制が可能で、その上昇力と併せ要撃機として最適であった。


F4D-1 Skyray (Tamiya 1/72)

 F4D-1の部隊配備であるが、1956年4月16日の海軍のVC-3(後にVF(AW)-3)への引き渡しを皮切りに、順次海軍及び海兵隊の17個の実戦飛行隊に配備されていった。またその他にも試験・評価飛行隊、運用支援飛行隊、訓練飛行隊、予備役飛行隊などにも引き渡されている。それほど多くない実戦飛行隊の中でもVF(AW)-3(キットのデカールにもあるテイルコード「PA」の飛行隊)はユニークで、F4D-1の上昇力を買われ、NORADで北米の防空任務に就いた海軍で唯一の飛行隊となった。  結局F4D-1は試作機も含め422機の機体が生産されたが、試作1号機の初飛行から、実用機の部隊配備までに5年以上の時間を費やしている。当時の開発スピードからすると遅いと言わざるを得ない。エンジンの開発不備や初めての無尾翼デルタ機の開発といった負の要因もあったが、もし実用化までの時間がもっと短縮されていたならより多くの機体が生産され、また高性能であったにもかかわらず4機の試作で終わった後継機、F5D-1 “Skylancer”も実用化されていたかもしれない。


F4D-1 Skyray (Tamiya 1/72)

製作

 最初にも述べたように、あまり手の入れる必要のない優れたキットのため、素直にストレート組みしたので注意すべきところも少ない。組み立てた順を追って気づいた点を述べていく。

1.  中・後胴部
 胴体は前胴部と中・後胴部に分かれているが、中後胴部には主翼も一体で整形されている。三角翼でブレンディッド・ウィングになっているので当然ではあるが。中後胴部は上下分割となっている。それぞれにインテイクダクトの内壁部がモールドされており、上下パーツを接着するとエンジンへの空気ダクトが出来上がる。 タミヤのキットと言えどもこの上下接合ラインを消すのはなかなか難しい。組立後パテ埋めして整形後塗装という手もあるが、1/72のスケールを考えるとそこまでする必要はなさそうだ。筆者は仮組時に少しペーパー掛けするくらいで済ませた。下面パーツにはエンジン圧縮機のフロントファンと主脚収納部の側壁パーツを先に取り付ける。いずれも塗装して組み込む。

(写真1)圧縮機の前に見えるのがインテイクダクトの壁である。また上面パーツの裏には主脚収納部の上壁のモールドも施されているので、上下接着前にインシグニアホワイトで塗装しておく。 (写真2)この後上下パーツを接着する。
(写真3)が中・後胴部の上下パーツを接着した後のインテイクダクトである。上下分割線が残っているが、覗き込まないと分からないのでこれで良しとする。

(写真1) 中・後胴部下面内側 

(写真2)中・後胴部上面内側


(写真3) インテイクダクト部


2. 前胴部&コクピット 
 前胴部は左右分割。コクピット内部はセミグロスブラックの指示であるがバスタブ式のコクピットと前胴部内壁は艶消しブラックで塗った。主計器盤はデカールも入っているが細かく彫刻されているので、試しに彫刻されたパネルの上からデカール軟化剤を塗布してデカールを貼ってみた。 (写真4)1/72スケールなら十分と、これで良しとした。サイドコンソールも黒ならあまり塗り分けても目立たないし、細かく塗り分けてもキャノピーを載せると見えなくなる。少しドライブラシをして終了。
前胴部の左右接着前にコクピットと前脚収納部を組み込んでおくが、その際錘も忘れずに取り付けておく。(写真5)
前胴部に組み込んだコクピットを撮ったものが(写真6)である。


(写真4)主計器盤
(写真5) 前胴部内側(接着前)

(写真6) 前胴部に組み込んだコクピット


3. 胴体組立と塗装
 前胴部と中・後胴部を接合した状態が写真7(上面)と写真8(下面)である。この状態でノズル部の内外面を塗装しておく。その後エアー・インテイクリップと垂直尾翼を取り付ければ、機体の組み立ては完了である。インテイクリップ部は接着後外面に段差ができないようサンドペーパーで整える。 インテイクリップ部には赤の危険注意マーキングがあるが、筆者はデカールを使用したが塗装した方が無難かもしれない。その場合は接着前に塗装まで済ませておいた方が、後処理がしやすいと思う。悩むところではあるが。

(写真7) 前胴部と中・後胴部を接合した状態(上面) (写真8)前胴部と中・後胴部を接合した状態(下面)

 機体の塗装は、機体上面がライトガルグレイ(FS36440)、下面がインシグニアホワイト(FS17875)の標準塗装である。また動翼であるフラッペロンの上面もインシグニアホワイトである。またインテイクの内側はインシグニアホワイトに塗られているが、スプリットベーン上面のライトガルグレイが入り口から少し入ったところまで塗られている機体もあり、定まってはいないようだ。また上記のFS番号で分かるように、この当時、上面のライトガルグレイは艶消しであったが、作例では半艶にしている。機首上面の防眩塗装は艶消しブラックで塗ったが、ノーズレドームと垂直尾翼チップ部前縁のアンテナレドームはセミグロスブラックで塗った。(写真9)が上面、(写真10)が下面の塗装後の状態である。 

(写真9) 機体の上面塗装 (写真10) 機体の下面塗装


4. デカール貼り付けと仕上げ
 デカールは購入後時間が経過していたので劣化を心配していたが、確かに台紙から剥がすのには時間がかかったものの、マークセッターを使いながらうまく貼ることができた。(写真11)ドロップタンクの曲面になじむかも少し心配したが、これもうまく乗り越えることができた。 (写真12)しかし案の定、前述したインテイクリップ部の危険注意マークは曲率が大きくサイズが小さいため、うまく馴染ませることができず数か所破損してしまった。ここは慌てずに外形のラインだけはしっかり定着させ、破れた部分は破面を綺麗に取り除き、塗装で穴埋めをした。
(写真13)最後にクリア塗料をオーバーコートすることでほとんど目立たなく仕上げることが出来た。


(写真11) デカールを貼り終えた機体

(写真12) デカールを貼ったドロップタンク (写真13) インテイクリップへのデカールの貼り付け

完成

 デカールが乾いた後、半艶クリアでのオーバーコートを施し、墨入れと汚しを軽くつけた。そして別途製作していたキャノピー、脚柱、尾輪、アレスティングフック、そしてウェポン類を取り付け完成。取り付けたウェポン類はAIM-9Bサイドワインダーミサイル×2、2.7in FFARロケット弾ポッド×2、300gal.ドロップタンク×2、そして航法支援ポッドNAVPAC×1とフル装備である。NAVPACはセンターラインパイロンに取り付けた小型の燃料タンクのようなポッドで航法機器と無線機器がパッケージされたものである。
(写真14~16)に完成写真を示す。
少ない部品点数でしっかりとスマートなスカイレイの姿態を再現してくれた。一作の価値あるキットだと思う。 


(写真14)  完成したF4D-1 ”スカイレイ“


(写真15)  完成したF4D-1 ”スカイレイ“


(写真16)  完成したF4D-1 ”スカイレイ“


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