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フルスクラッチビルド & ソリッドモデルの製作
HAL HJT-キラン(ソリッドモデル)
by 小山新一
(実機について)
寡聞にして断言すれば、この機体を模型として形にしたのは、私が初めてではなかろうか。大手のメーカーはもちろん、簡易射出メーカーあるいはガレージ・キットのメーカーにいたるまで、市場に出た本機の組立てキットはみたことがない。そうであるなら、これは絶後ではないかも知れぬが、空前の快挙といえるのでなかろうか。
HALはヒンダスタン・アエロノート・リミテッドの略で、インド国営の航空機開発企業である。キランはこのHALが、第二次世界大戦後に開発した初の国産ジェット練習機である。
インドが一世紀弱のイギリスの支配から独立したのが、1947年である。したがって、キランの設計や仕様などいろんな面で、イギリスの影響が色濃い。機体規模、形態などが、同時期のイギリスのジェット練習機ジェット・プロボストとよく似ているのは、こうした背景によるものであろう。
(制作)
年をとると、今のことはともかく、昔のことはよく覚えているといわれる。私の場合キランに関してがそうで、昔の「航空ジャーナル」が特集として取り上げ、図面ものっていたことをしっかり覚えていた。いたのだが、航空雑誌は何度かの引っ越しで散逸し、ためにヤフオクでこの号を探し、購入することから始めねばならなかった。
「航空ジャーナル」1977年1月号
この号掲載の鈴木幸雄氏の図面を、1/48に拡大し、主要パーツを木取したのは本年5月のことであった。
以後、蒸し暑い梅雨と猛暑の夏の間、ソリッドは殆ど手付かずの状態で過ぎた。
工作を再開したのが、涼しくなった9月以降で、完成が11月3日文化の日だから、実質2か月で完成までこぎつけたことになる。
工作のプロセスはいつもと変わりない。機体外形の削りとペーパーがけ、並行して小物の作成、コクピット部くり抜き、キャノピーの木型整形などを進める。左右の砲弾型のエア・インテークは木で作り、中をくり抜き、胴体接着部をプラ板で作った。このインテークについて、1977年の「航空ジャーナル」は「まるでモック・アップ審査の段階で、エア・インテークの必要を指摘され、あわててつけたようである」と書いているが、まさかに忘れたわけではあるまい。無理に胴体とブレンドさせずとも、練習機ならこれで十分と割り切ったのだと思う。
木取り
コクピット内部の造作は(大きな声では言えぬが)ほぼデッチアゲである。資料が、ネット検索でも皆無であったのだ。インド機のマイナーぶりの証明である。エアフィックスの1/72ジェット・プロボストを参考に、らしく作ったというのが実状である。中でも計器盤なぞジェット・プロボストのデカールの計器盤を1/48に拡大、これをベースに透明塩ビ、穴あきの盤面と3枚重ねで作ったのである。
小物(計器盤、射出座席など)
射出座席は「航空ジャーナル」のデータではMk4HAとあるが、ネットで調べてもよく分からない。箱組で作り、それにクッションをらしく積み重ね、あとはシート・ベルトやフェイス・カーテン・ハンドルのリングをつけ、黄と黒に塗った。自前の、MkX(エックス)ですかね。座席配置がイギリス流のサイド・バイ・サイドなので並列でコクピットに収まるよう、気を使った。そう幅広でない胴体なので、実機もかなり窮屈なアレンジなのが実感された。
境界層板の工作
今回初めての工作は左右の主翼上面の境界層板である。薄いプラ板で作ることは決めていたが、主翼と密着させねばみっともない。主翼上面のカーブに合わせてプラ板を切り出すのは、ほぼ不可能に近い。ために、仕上げ塗装寸前まで磨きこんだ主翼に、薄いノコで切れ目を入れ、この溝に0.3ミリのプラ板を差し込むようにした。これだと曲線はおおざっぱでよく、接着後ハサミで形を整えれば、隙間なしに仕上がる。
脚柱とタイヤ
(仕上げと塗装)
塗装は悩んだ末に「U703号機」にした。部隊配備の、練習機らしい蛍光オレンジ塗装の機体も魅力的だったが、塗り分けが面倒そうなのでオミットする。U703号機は、クレオスの缶スプレー(銀)を吹き、のち手描きでマーキングをかいた。銀を吹くときに国籍マークの円を、シートでカバーし白を筆塗りしたのち、オレンジ・グリーンを筆塗りする。写真でみると外側の円は赤に見えるが、赤に近いオレンジが正しい。国旗の、オレンジ・白・グリーンの3色なのである。手描きにしても、デカールにしてもインドの国籍マークは初めてである。尾翼のフィン・フラッシュも手描きである。胴体と主翼下面のシリアルナンバーは、方眼紙にレタリングをし、カーボン紙でマスキング・シートに転写し、切り抜いて機体にはり、鉛筆で輪郭をなぞって筆でかいた。主翼下面のシリアルが左右で上下逆なのは、イギリス流である。
このU703号機は、ネットの写真のキャプションによれば、1972年イギリスのファーンボロに持ち込まれエア・ショーで空を舞ったとある。かつての宗主国に「自前でこんなん、作りましたで」といささか誇らしげに、言っているような気がせぬでもない。
主翼下面のシリアル
(追伸)
(実機について)の項で記さなかったが、「航空ジャーナル」1977月号の特集タイトルは、「キランとマルート」であった。マルートはインド初の国産ジェット戦闘機である。HALは戦闘機は手にあまるとして、設計を外国の設計者に依頼した。この設計者こそ誰あろう、大戦機ファンにとってのビッグ・ネーム、ドイツのクルト・タンクその人であった。そのうち作るかも知れない機体の候補として、あげておきます。
「記し忘れたが、キランはサンスクリット語で『光線』の意味である。」
右側面
左側面
コクピットのアップ
ターバン姿の整備兵(タミヤのドイツ兵からの改造)とともに
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