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Big キット作り倒し (第2回)

九七大艇  (ハセガワ 1/72)

by 田口 博通 Hiromichi Taguchi
                              
 押入れを占領するBigキットを作り倒し バーンとスペースを空けようというBigな連載コーナー。1/32と限らず、巨大な箱ならなんでも取り出します。デビスモンサンにモスポールされた可哀想なBigキットが再び、皆様のお役に立ちます。
 
 第2回目は ハセガワの 九七大艇。
正式名称は 海軍九七式飛行艇ニ三型(H6k5)。
1/72ですが、翼長54cm,全長36cmと 完成すると 辺りを圧倒する巨大さがあります。 箱もこれまた大きい、、
 1970年に発売され、約40年経っていますが、大きすぎるゆえか、それとも張り線もあり 製作に手間がかかるゆえか? クラブ展示会でも 完成品をほとんど見かけないキット であります。
 大きさの割りに パーツ点数は95と 比較的少なく、 凸リベット、凸パネルラインが端正なキットですが、高翼のため、構成が複雑です。
 それではモスポールを解いて、作り倒して見たいと思います。
   (参考文献 MA 1970年1月号 3面図
           MA 1970年4月号 製作記事  )





■実機について
 九七大艇は、川西航空機(後の新明和)が生んだ 傑作飛行艇である。原型は1936年に初飛行し、当初は 九試大型飛行艇と呼ばれていた。現在のPS-1のご先祖様に当たる飛行艇である。 設計当時、最大規模の飛行機で、なんと全幅40m、全長25m、発動機は 三菱金星五一型1300馬力を 4発装備していた。巡航速度259km、航続距離は6770kmと 長大であった。 この特性を生かして長距離哨戒や、
索敵に使用されていたが、低速のため、損害も多かった。179機生産されたうち、終戦時には ほとんど残存していなかった。搭乗員は毎回 死を覚悟して乗ったと聞く。戦時とはいえ、ご家族の心情 いかばかりかであろう。
 民間でも 大日本航空で 旅客機として18機が使用され、「川西四発飛行艇」と親しまれ、フィリピン、インドネシア、シンガポールへと西南太平洋方面を飛び回っていた。





■キットの概略
   ハセガワの 九七大艇は 今から約40年ほど前の1970年春に発売されたキットです。 ハセガワは当時、「長谷川製作所」と 呼ばれていた時代でした。1960年代後半から 1/72大型機シリーズと銘打って 二式大艇、試作爆撃機連山、B-47Eと 一連のシリーズを 年1作くらいのペースで発売しており、九七大艇はその最新作でした。
 このシリーズの選定機種は どれもかなりマイナー機種であり、一口に言えばマニア的。プラモ少年には知名度が無く、市場性は低かったと思います。現代では、このような冒険的アイテムを、リスクをかかえて発売することは まずないでしょうから、古き良き時代だったのです。
 特大箱ゆえ 模型店の一番上の棚に、誰が買うのか 買わないのか、いつも飾られており、大きな箱というだけで 模型少年の憧れでした。が、いかんせん、よく知られていないマイナー機で、高価だっただけに、今ひとつ手は届かなかったのでした。 私が購入したのは ずいぶん後の1990年頃です。箱を開けて、主翼部品の大きさに納得し、20年間 押入れにモスポールされていました。
 この大型機シリーズは 部品点数を抑えて 可動部も少なく、大型機でも作りやすく というコンセプトで設計されたキット達でした。九七大艇もパーツ点数は 95と比較的少なく、可動部はフラップのみ、凸リベット、凸パネルラインが端正なキットです。





  キットが設計された時代は 3次元CADなど もちろん無く、部品図は製図台の上で 鉛筆で書いた時代です。曲線は 多項式曲線でなく、曲線定規で引いていました。
 また、金型加工も 今のようなCAMはありませんから、職人さんが図面を見て、木型をあてて 曲面を加工していたわけです。
 このため、3次元となった 部品の合いも 現代の 楽なキットに比べると大変ですが、それでも かなりよく合う方だと 納得しておきましょう。 
 
 組み立ては ストレートに作るならば 1ヶ月で組むことも可能と思います。が、支柱が多く、吹きつけ塗装では マスキングが大変です。
 ということで、熟考?のすえ、なんと この大型機を 筆塗りで行くことにしました。 
 手順は、胴体、尾翼を一体にし、主翼と別に塗装する。マーキングも行った後で、主翼を胴体につけ、支柱を取り付け 全体を組上げ、最後に支柱と張り線をタッチアップ といった順です。


■胴体の製作
 まず、これを作らないと始まらない コクピットから製作を始めます。パイロットシートは 単にL字型の部品ですが 目をつぶり、シートベルトと肩ベルトだけ つり用の鉛板で 追加しておきました。
 床板と前後隔壁は 海軍機内色(グンゼ特色No126) で塗装。操縦ハンドルと計器版も ラフなものですが、キャノピーからはシートの上半分以外は ほとんど見えませんので 片目をつぶりましょう。胴体内部は 機内色で塗りつぶしておきます。
 機首の透明窓部品は分厚いので、アクリル板で作り直したいところですが、手が止まると 押入れに逆戻り。ここは作り倒すのが目的なので、このまま進行です。
 大型機ゆえ、胴体の左右接着後に ぱっくりと割れるのは嫌なもの、継ぎ目にプラ板で のりしろを仕込んでおきます。主翼支えも 胴体にしっかり接着。背中の機銃座カバー?も 胴体の補強材になります。Bigキットは まず強度の確保が優先です。


パイロットシートにはシートベルトを鉛板で追加。高価なエッチング製ベルトを使わなくとも、それらしく見えれば上出来。



出来上がると 操縦席まわりは下の写真のように あまり見えないので、ご心配なく
ちなみに 外板のリベットラインはダークシルバーで、錆びはエナメルのハルレッドで書き込んでいる。




■翼
 水平尾翼は胴体に水平になるよう接着し、隙間はパテで埋めると割り切った方が完成に近づきます。 主翼は内翼、外翼で分割されているので、左右の上半角のバランスに注意しながら 一挙に張り合わせてしまいます。フラップは可動ですが、最後に組み込んでも 大丈夫です。 
また、Bigプラモは総じて肉厚プラのため、困ったことに’プラのひけ’が水平尾翼に目立ちます。ここは勝負の早いポリパテで 埋めつくしておきます。
  乾燥後、400番の耐水ペーパーでざっくりと削り修正しておきます。写真の黄色い部分です。 周囲の凸リベット、凸パネルラインの上にテープで保護をして ペーパーがけするといいでしょう。 リベットをカルコでそれらしく再現しますが、オリジナルの凸リベットとの差は 以外と気になりません。 
 エンジンカウリングは 形がよく出ているのですが、カウリングフラップが分厚いので 薄く削ってみて下さい。男前が上がります。


プラのひけが大きいので ポリパテ(黄色部分)でざっくり埋める。



エンジンカウリングは形はいいのだが、カウリングフラップが分厚いので 裏から薄く削る。



■塗装
 今回は、筆塗りでトライです。以前、SA誌で「田中式筆塗り術」を読み、なーるほど と感心し、1/72戦闘機で チマチマと試していたのですが、一挙に大型機で やってみることにしました。
  下面の明灰白色は グンゼ海軍下面色 No.35、上面の暗緑色は 海軍上面色 No.16、主翼前縁は黄橙色 No58 を素直に使っています。
  ツヤケシ剤を加え、少し薄めに溶いて 斜め、斜め、横、縦と4回も細筆で塗れば、筆ムラが消えてきます。一見 筆ムラに見える箇所も よく見ると実は塗る量が足らなくて 下地が透けて見えるだけです。 自信を持って、更に塗り重ねてやれば、ムラは消えてしまいます。逆に、これだけ大きな機体では、のっぺらな塗装では つまらなくなります。  
 表面の情報量を 多くしてやりたいところですが、筆ムラも消えすぎると 筆のタッチを残すのは難しいのです。 というわけで、リベットラインと、塗装のあせた状態を 細筆で書き込んでみました。
  リベットラインは黒で薄めた下面色を塗り、気流後側へとぼかしています。また、コクピット脇はAFVよろしく エナメルのダークシルバーとハルレッドで リベットラインの錆びを書き込んでいます。
 主翼上下面とも、塗装のあせた部分には バフ色を薄く 細筆で塗り、機体色でぼかしています。更に影になる部分には 機体色に暗茶色を加え、影を書き込んでいます。
 というわけで、かなりシュールな仕上がりになっていますが、仲間内でも 筆塗りだとこっちから言わないと 気がついてもらえませんでした。せっかく苦労したのに残念。


リベットラインを書き込み機体色でぼかす。パネル毎に汚れを書き込み、微妙な?色の違いの情報を加えた。



リベットラインを書き込んで強調し、色あせの部分は更にバフ色を筆塗りしてぼかした。






主翼上面に 細筆で書き込んだ色のあせた部分が シュール?であります。



■マーキング
 デカールが経年変化で使えなくなっていたため、やむなく、手書きしました。
 日の丸はマスキングゾルを塗り、デカールを型紙にして カミソリで円を切り抜きます。 白で下塗りした上にNo68モンザレッドを筆塗りしました。
 垂直尾翼のKEA-87の文字は 面相筆でフリーハンドで書いています。 上下をテープでマスキングして、鉛筆で下書きしました。近くで見れば フラフラしているものの 遠めに見ればわかりません。


日の丸をグンゼマスキングゾルを使って筆塗り。右はパレット代わりに使っているアルミホイルの使い捨て皿(9号)



■ 全体の組立て  ■完成 そして 
 主翼は胴体支柱にまず接着し、強度はここで保ちます。その他の細い支柱の長さは 現物合わせで削り合わせて行きます。支柱が多いので、一見大変そうですが、支柱がそらないようにさえ注意すれば 大丈夫です。接着部には0.5mm金属線のピンを仕込んで補強しておくと丈夫になります。
 補助フロートの張り線は 0.3mm径の洋白線を使いました。金属線は少し長めに切っておき、プラ側の穴を深めに開けておいて、差し込む長さを調節すると簡単です。本当は 両翼支柱もXの張り線があるのですが、面倒だったので省略しています。
 主翼前縁のアクセントとなるピトー管と ループアンテナは 0.3mm径の 洋白線で作り直すと、人目を引きます。エルロン作動索も同様に洋白線で追加。アンテナ線は ナイロンテグスを使っています。
 キットは23型なので、今回はMA1970年のカラー図 で紹介されている KEA-87 海上護衛総隊所属機を製作しています。高校時代にこの機体を作りたいと思い立ち、38年目にして やっと完成しました。美しい姿に大満足であります。
 ところで、同号に 大日本航空で使用された 九七式輸送飛行艇(H6K2-L)民間型  叢雲(ムラクモ)J-BGOC のカラー図が掲載されており、、これも ずっと作りたいと思ってきた機体です。 上面 銀色、胴体と補助フロート下面が赤(さびどめ?) という派手な塗装であります。
と またもう1機キットを買ってきたら 完成はいつのことやら、押入れが元のもくあみ。ガマンガマン

胴体支柱をそらないようにとりつけてゆく。0.5mm金属線のピンで補強しておくと丈夫
補助フロート張り線は 0.3mm洋白線 を使っている。




ピトー管とループアンテナは 同じく0.3mm洋白線で自作。アンテナ線はナイロンテグスを使用した。


この角度から見た九七大艇は実に美しく、精悍な姿を彷彿させる。



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 Vol.2 2009 Mar.       www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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