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三式戦闘機「飛燕」二型改 製作記
ハセガワ 1/48 一型丁より改造
 

by 三浦 真
 


三式戦二型改

・はじめに

 第二次大戦中、旧帝国陸海軍が実戦で使用した戦闘機の中で、唯一水冷エンジンを搭載した機体として知られる三式戦闘機は、凡そ日本機らしからぬスマートな姿形を持ち、その流麗なフォルムには、正に「飛燕」という愛称がピッタリくる機体です。
 私がこの三式戦という機体にこの上ない魅力を感ずるのも、そんな姿かたちの美しさ、見た目のカッコ良さに惹かれるからなのかもしれません。

 さて、本稿では、そんな「飛燕」ファンの私が、そのお気に入りの機体を、我が“私設博物館”のコレクションのひとつに加えるべく、凡そ1年半の製作期間を要して完成させた拙作をご紹介させて戴きたいと思います。

 ところで、これは最初にお断りしておかなければなりませんが、実を言えば、本作品の製作は今を去ること十年ほど前のこと('98-'00年ごろ)でして、当時習得した実機に関する知識や実際の工作時に計算した細部の数値などは、その大半を忘れてしまいました。(作業の内容については覚えていますが。)また、工作当時にはデジカメのような手軽な記録媒体も所有していなかったため、途中経過の記録写真なども一切残っていません。
 このため、「工作ガイド」と言う意味合いからは些か貧弱な内容になっており、本記事を参考にして同様の改造工作を、というのはちょっと難しい話かもしれません。(その点、一般の模型誌に掲載の工作記事とは趣が異なります。)
 お読み戴くに当たっては、予めその辺を念頭において読んでいただけると幸いです。

 

・一型シリーズと二型(改)の外見上の違い

今回の作品は、市販のプラキット(一型丁)をベースに改造を加え、「二型改」として完成させたものですが、最初に改造工作のポイントとなる「一型」と「二型」(&「二型改」)の外見上の違いなどについて、簡単におさらいしておくことにしましょう。

 昭和16年、太平洋戦争の開戦とほぼ時を同じくして誕生したキ61は、飛行試験や軍の審査などを経て、その二年後の昭和18年、「三式戦闘機」として制式採用になりました。
 最初の量産型である「一型」は、同年より順次実戦部隊に配備・運用されて行きますが、その過程で武装の強化や細部の小改修が行なわれ、進化(?)しながら増産されてゆきます。これら一連の改良を施されたマイナーチェンジモデルが、一型「甲」~「丁」と呼ばれるサブタイプです。
 各サブタイプの違いは、今回の改造工作には直接関係ないのでここでは詳細は割愛させて戴きますが、「丁」以前のタイプは、基本的な機体形状に大きな差異はありません。(「丙」→「丁」の時点で胴体長が200ミリ延長されています。)

 その一方で、量産に入った「一型」の性能向上を目的として計画されたのが「二型」と言われる機体です。
 こちらは、基本的に「一型」シリーズとは異なる新しい機体として設計されたもので、エンジンは出力の増したパワーアップ版を採用、これに伴い、胴体と主翼をスケールアップして全般的な性能向上を図る、と言うものでした。
 しかし、都合8機の試作機を持ってテストが行なわれたものの、エンジントラブルなどで当初計画したほどの性能向上は見られず、結局オリジナルの「二型」は計画そのものが中止となってしまいました。

 とはいうものの、戦況も逼迫している当時の状況では、本機の性能向上は是非とも成し遂げなければならない急務です。このため、頓挫してしまった「二型」の代案として、主にメーカー主導で発案されたのが、本稿で取り上げる「二型改」でした。
 こちらは「二型」同様、パワーアップ版のエンジンを搭載(胴体部分は「二型」で再設計されたものを使用。)するものの、主翼などのパートは量産されている一型シリーズ(「一型丁」)から流用し、両者を合体させて形にするというもの。

 結果、この「二型改」は、オリジナルの「二型」同様、心臓部であるエンジンの信頼性に不安を抱えながらも、飛行試験に於いてはそこそこの性能を見せ、制式採用されて“第二の三式戦”として量産されることになりました。(しかし、同じエンジンを搭載する以上、「二型」で問題となったエンジンのトラブルは解消されることがなく、エンジン生産が間に合わずに放置状態だった機体部分を流用、これに空冷エンジンを搭載した「五式戦」が誕生したことはご承知の通りです。)

 因みに、頓挫した「二型」と同一エンジンを搭載しながらも、何故「二型改」が制式採用となったのか、手持ちの資料では記述が曖昧でよく判りませんでした。(参考資料には、審査に供された試作機には“入念に整備されたエンジンが搭載されていたため”、との記述があるのですが、その程度のことで、一旦ダメ出しした機体が採用になると言うのは、あまりにも安直過ぎるように感じられます。)

 

三式戦二型改 側面

 

 ということで、その「二型改」。

主翼は「一型丁」からの流用なのでこれと同一ですが、胴体部分はエンジン換装に伴って全長が伸び(一型丁に比して+約220ミリ。尚、これも具体的な根拠が不明ですが、製作当時に使用した資料本の記述では機首部分のみが伸びているように書いてあります。)ており、これと合わせて機首部分は全般的な形状もリファインされているため、両者の印象はかなり違ったものになっています。

 胴体の伸長に合わせて垂直尾翼も増積され、側面形状が変わっています。(安定板前縁が前方に伸び、傾斜角も深くなっている。)

 そのほか細かいところでは、スピナーの形状が変わり(最大径も増えている)、ペラブレードも形状及び直径の変更(全体に大型化)が行なわれています。風防も、第一風防付け根ののぞき窓(?)が廃止となり、やや大きめの平面構成のものに変更されています。



・機首の改造

 それでは、実際の改造工作に話を進めましょう。まずは一番のポイントである機首部分の工作です。
 資料本の記述によれば、ここはエンジン換装に伴って220ミリ延長されており、形状も変更されているようです。

 機首の伸長工作は、キットの胴体パーツを適当な位置で切断、伸長分(48スケール換算で約4.5ミリ)のシムをかませて長さを伸ばすと言う方法もありますが、一型と二型では機首部分の側面形状、特にスピナ付け根付近の絞込み具合にかなりの違いがあるため、単純に長さを伸ばせば済むというものではありません。1/72のような小スケールならともかく、48スケールではサイズもそれなりになりますから、整形作業が結構シンドイものになってしまいます。
 このため、形状もリファインされている機首部分を丸ごと自作パーツに交換することにしました。


 

機首部側面写真 機首自作パーツ用の木型

自作する機首パートは、ホウノキから削りだした木型を用い、これで1ミリプラバンをヒートプレスして製作しました。内側には、前後二箇所くらいに隔壁を入れ、強度的に不安がないよう補強したように記憶しています。

 因みに、自作パーツの部品分割は左右の2ピース。バキュームマシンなどは使わず、手作業で絞り出しています。木型の側面に開いている穴は空気抜きではなく、木型をベンチバイスに固定する際の支持架を差し込むためのもの。プレス時はこの2本の指示架で木型を保持して作業します。

 一方、機首以外は基本オリジナルのまま使用するキットの胴体パーツは、第一風防の前方、表面にスジボリなどのモールドの少ない位置を選び、翼付け根を残すようにしてクランク状に切断、不要となる機首部分を切り離しました。(大まかな切断位置は木型上にうっすらと残っているエンピツ線でお分かりいただけると思います。尚、言うまでもなく、ここで切断位置をスジボリからずらしたのは、以後の整形・仕上げ処理をやりやすくするため。スジボリなど機体表面のモールド表現を追加工する際、こうしたパーツの継ぎ目にかかっているとえらくやりにくいですから。)

 自作パートとキットオリジナルのパートは、組み立て後に歪みなど生じないよう、パーツ段階で十分に仮組みし、各々の接合面を慎重に擦り合わせしておきます。
 あとは操縦席などの内部工作を済ませて(これについては後ほど詳述。)から、両者を合体、継ぎ目を埋め、表面のモールド(スジボリ)やディテール(小スクープとか、結構細かな突起類がついてます。)を追加すれば作業は完了です。
 ここでのポイントは、やはりスジボリ工作でしょうか。ハセガワの一型丁は、オリジナルの状態で綺麗なスジボリモールドが入っていますから、タッチや細部表現の具合など、極力これと違和感を感じないよう、全体的な調子を見て彫刻してやります。(オリジナルのラインも、Pカッターでなぞるなどして、多少手は入れました。)


自作した機首のディテール その1(左上側面) 自作した機首のディテール その2(右側面)

 

細部の工作については、あまり記憶が定かでないのですが、与圧空気取り入れ口はプラバンの貼り合わせ、排気管や機銃は真鍮パイプからの自作だったと思います。(写真では撮影アングルが悪くてよく分りませんが、排気管の“管”は開口してあります。片側6個ずつ、都合12個の“管”を自作するのは結構大変な作業でした。)
 それから、機銃孔のミゾは、真鍮パイプの埋め込みで工作するのが一般的ですが、この作品ではプラ角棒にドリルで穴開けて作った即席パイプを使って工作しました。金属素材はスチロール樹脂と硬さが異なり、ヤスリ掛けなどの作業性が良くありませんからね。接着時の相性もあまり良くないし。

 
・ペラとスピナー

二型改ではエンジン出力が増したこともあって、ペラとスピナーは直径が大きくなり(スピナー:660→700ミリ、ペラ:3.0→3.1メートル)、ブレードも幅広のものに交換されています。ここは似たような形状のものを他キットから流用すればお手軽だと思いますが、不要となったジャンクパーツならともかく、私はどうも手をつけてない“サラ”のキットをパーツ取りに使って潰してしまう、なんてことは勿体無くてできません。そこで、この作品でも、キットのパーツに手を入れて使用することにしました。
 スピナーはキットのパーツの根元にプラバンを接着して径を増大、形状もやや丸みを帯びるよう先端を削り込みました。
 ペラブレードは、最初長さ方向の真ん中あたりで切り離した後、さらに先端側を縦割りして、各々にシムをかませて長さと幅を大きくしました。

 

ペラとスピナー

 

・風防

二型の風防は、一型のそれに比べて大型化、レイアウトも若干変更されており、キットのクリアパーツは使うことが出来ません。ここも丸ごと作り直すことにしました。


自作したキャノピーのディテール 自作キャノピー用の木型

 

 で、自作の風防は塩ビ製。市販の所謂「パスケース」を使い、機種と同じく自作したプレス型を用いてプレス加工しました。

 写真は自作パーツのプレスに使用した木型です。素材は機首のそれと同じくホウノキ製。こちらはクリアパーツをプレスするため、表面を瞬着でコーティングして、コンパウンド磨きでツルピカに仕上げてあります。

 また、各風防の窓枠はプラバン製。一旦プレスした塩ビのクリアパーツを木型に被せ、さらにその上から0.3ミリプラバンをプレス、これを極薄に削り込んでから窓をくりぬく、という手順で製作しました。実物に比べ、若干枠が太くなってしまいましたが、技術的な問題でこれ以上細く出来なかったので、ここは雰囲気優先で妥協しました。
 出来上がった枠は裏面を機内色で塗っておき、この塗料の塗膜を使って塩ビとくっつける手法をとりました。(両者を密着させておいて、スキマに微量のシンナーを流し込み接着。因みに、そのままではやはり違和感があるので、貼り付けた枠に沿って、内側から再度枠を描きこんでおきました。)

 

・垂直尾翼

 垂直尾翼も安定板が増積され、幾分大きくなっています。
 キットの安定板の前縁部分を切り取ってから、ここに積層プラバンを接着、大型化しました。
 付け根のフェアリングはプラペーパーで。サフなども併用、違和感なく仕上たつもりだったのですが、完成直後はともかく、時間が経ったら若干引けて見苦しくなってしまいました。やはりこうした工作にパテ素材(=サフ)を使うのはご法度だったようです。

垂直尾翼のディテール

 

尚、方向舵は一度切り離し、カバーが取れてむき出しになっているヒンジなどを追加工作してみました。

 

・その他の追加工作

一型→二型改への改造工作については大体こんなもんですが、折角作るのですから、それ以外のところで気になる箇所も直しておきたいところです。製作にあたっては、改造工作以外にも以下の項目も追加工作して手直ししておきました。

 
1.操縦席

オリジナルの状態でも、プラキットとしてはそこそこ出来のよいパーツがついています。しかし、やはり立体感などの表現は型抜きでは再現が難しく、100%満足ゆくものにはなっていません。肉厚も厚すぎ、操縦席全体が小さく、狭くなってしまいます。ここは全てスクラッチビルドで作り直しました。

操縦席のディテール(計器盤と照準器) 操縦席のディテール(左側面の補器類)

 

2.脚周り(主脚と脚孔)

キットの脚孔はやや浅めで、ディテールもあっさりめ。ここは当該エリアを切り離し、全て自作のパーツに取り替えました。(脚孔内の各パートをプレス加工で自作、これを組み合わせて翼内に組み込みました。)
 また、脚そのものにはこれと言って手は加えていませんが、カバー(扉)はプラバン製に交換、ブレーキパイプなども追加しました。

 

主脚孔のディテール 主脚のディテール

3.主翼(フラップ及び各動翼)
 

実機同様、主翼パートはキットのままで流用。但し、エルロンやフラップなどの“補助翼”部分は一旦切り離して付け直し、可動部らしい動きを表現するようにしてみました。
 特に翼下面のフラップは、各厚のプラバンを駆使して実機どおりの構造材を再現、ある意味“見せ場”となるよう力を入れて工作したのですが、如何せん展示用の設置(駐機)状態では肝心の工作部分が隠れてしまって目に入らず、苦労した割には見栄えのしない“見せ場となってしまいました。


主翼のディテール 下面フラップのディテール

 

4.下面ラジエーター/オイルクーラー

ここもキットオリジナルの状態ではパーツエッヂの肉厚が厚すぎ、甚だ実感を削ぐ出来だったので、丸ごとプラバン製の自作パーツに換装しました。(こちらも自作パーツは木型によるプレス加工です。)
 大変だったのが内部の整流板。十文字に組み合わせてある上、横方向のそれは断面がS字型にカーブしています。十文字は何とかなったものの(縦横各々のプラバンに切り込みを入れ、十字型に組み合わせてあります。)、このS字カーブは何ともならず、結局単純な円弧型で誤魔化しました。
 結果、ここも隠れてしまって完成後は殆ど見えず、大変だった割には苦労のし甲斐がありませんでした。


胴体下面ラジエーター/オイルクーラー(前面) 胴体下面ラジエーター/オイルクーラー(後面)

 

・塗装とマーキング

プロフィール(背面より)

 

 マーキングは、三式戦で唯一の現存機である無塗装「黒の17番」を選択しました。

 二型改として完成した機体は、数こそ少ないものの100機程度の機数はあり、実際に実戦部隊に配備された機体もあったようです。
 或いは、そうした事実を踏まえ、これに多少の想像力を加えて、実戦配備された機体の塗装を施してみても面白かったかもしれません。ただ、どうも私はそうした架空の設定で自由な発想をする、と言うのはあんまし得意ではない(これも長の年月スケールモデル一辺倒で来た事の弊害でしょうか。)ので、実機写真などしっかりした裏づけのあるこの機体を選びました。

 塗料は全てクレオスのラッカー系。8番のシルバーをベースに、微量のホワイトやブラック、それにグレーなどの添加色を混ぜて色調を変えたシルバーで各外板を塗り分ける、という極めてオーソドックスな手法で仕上げました。
 しかし、何せ今から十年ほど前の作品ゆえ、昨今流行のパネルに添って明暗つける、といったウェザリング重視の塗り方もしてませんし、メタルカラーを使って金属の質感を出してみる、みたいな試みもしていません。
 このため、今見ると些か平板、単調に過ぎ、もう一工夫加えてみてもよかったかな、という気はしています。

 また、本作品を製作した当時は、「各補助翼は灰緑色に塗り分けられていた」という珍説(?)が流布していた時期(私も、資料本に堂々と記載されているこうした既述を、大した疑念も持たずにそのまま信じていました。)でして、そうした時代の風潮を反映し、各補助翼は灰緑色仕上げとなっています。(笑)
 機体各部に記入された注意書きはキットのデカールを使用。国籍マークや尾翼の機番など、主要な部分のみ塗装で入れてあります。

 

・しめくくりに

ということで、今から凡そ十年ほど前、当時の私が持てる技術の全てを注ぎ込んで作り上げた拙作をご紹介させて戴きました。あらためて振返ってみると、本作品は、私が30代に製作した最後の作品となり、そういう意味では非常に感慨深い作品となりました。

 しかし、この二型改、現存機も過去に度重なる補修を加えられており、オリジナルの状態とはかなり違ったものになってしまっています。このため、製作にあたっては資料のどの部分を信用して工作すればよいのか、「情報の取捨選択」が難しい機体ではありました。
 機首形状など見た目に顕著なパートはともかく、それ以外の細部については、いざ実際に工作しようとすると、単一の写真だけでは判別のしにくい部分もあり、その辺も苦労させられました。
 そうした中で、今でもよく分らないのが伸長された胴体と主翼の取り付け位置です。
 資料によっては、胴体の伸長については伸長部分を特定せず、単に全長の記述のみにとどめているものもあったりして、果たして本当に機首のみが伸長されていたのかはよく判りません。
 また、三式戦の主翼は左右一体の一枚もので、機体の重心位置の移動に対処できるよう若干ながら取り付け位置の変更が可能だったそうですが、一型と二型では、エンジンそのものが換装されていますから、重心位置が変わり、主翼の取り付け位置が動いていたのかもしれません。
 結局、これらの疑問点については、手持ちの資料だけではこれと言った確証も得られず、既述のような形で作業を進めました。(でないと模型作品として形になりませんからね。)

 それから、これはちょっと余談ですが、本作品は完成の後、改造のベースにしたオリジナルキットのメーカー主催のコンテストに応募・出品致しまして、そこそこの評価を戴くこととなりました。
 私としては、ほんの腕試しのつもりで参加したコンテストだったのですが、思いがけずの入賞、そして予想外の高評価には、驚かされると同時に大変な栄誉も感じ、以後の製作活動への大きな励みとなりました。

 

三式戦二型改プロフィール

 

三式戦二型改(あおりアングル)

 


Vol.9 2009 Oct.        www.webmodelers.com          Office webmodelers all right reserved   無断転載を禁ず  リンクフリー
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