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懐かしのB級キット(第4回)
零戦21型 (ニチモ 1/70)

by 田口博通 
  玩具から始まったプラモデルが ギミック路線か、それとも 全く動かないけれども精密なモデルの方向に行くか メーカーによって多様性に溢れていたのが 1960年台でした。
 当時から、精密というには?がつくけれども ギミックが面白いプラモデルを日本メーカーが多く発売していました。エルロン、方向舵可動は当たり前、というか それが当たり前のトレンドの時代だったともいえます。学校前の文具店でプラモデルが売られていることも多く、箱絵が魅力的でショーウインドーに釘付けになり、学校帰りに店の前の道路で座り込んで、プラモを作った経験のある読者も多いはず。小学生の遊びの一部として当たり前にプラモデルがあり、今からは想像も出来ないプラモ黄金時代だったと思います。

 
 金型精度が追いつかず、可動部がガタガタで、細かいディテールは?が二つくらいつくが、デッサンはなんとなく実機の雰囲気を再現しているという今でも捨てがたいキットが多くありました。既に絶版になっているものが多いのですが、幸い、その中には今でも生き残って現役のプラモキットもあります。
このシリーズは そんな 懐かしいB級キットを取り上げて行こうという連載です。形状とか デイテールを求めるならば、後発の決定版を購入すればいいわけで、ディテールの修正などをせず、オリジナルの雰囲気を壊さず、完成を目指したいと思います。


  第4回目は ニチモの1/70 シリーズから 零戦21型です。静岡ホビーショーで 久しぶりに零戦21型、零戦52型、雷電の3機アソートセットが1000円として販売されていました。今時、3機1000円の特価のチラシに ついまた、お買い求めになった方もあったのでは。 私は 昨年10月の幕張ホビーショーの蔵出し販売で500円で買いました。  この21型のキット、元気で現役で販売されているような そうでないような、、、不思議なキットです。昔100円くらいで売られていたと思いますが、時代の流れか、大きな模型店の棚でも見かけなくなっています。本当は 現在 おいくらなのでしょう?


キットについて


 このニチモの零戦21型は 60年代を代表するキットで エルロンとラダー、主脚が可動します。もちろん、90年代に出現したハセガワのリメイク零戦決定版と比較すると、つらい部分が多々ありますが、基本形がキチンと出来ているのが立派です。主翼に主脚出し確認棒がモールドされているのは、1/72クラスではこのニチモだけです。
 どうしても修正したくなる部分は機首機銃カバーの形状です。これだけは 1/48や1/32のキットを立体資料にして、中心付近を削ってあげましょう。

 箱絵に描かれているのは B2-140 黄帯。胴体に青の2本線。
調べてみると、真珠湾第二次攻撃隊 飛龍搭載機 第4中隊第11小隊1番機 熊野澄夫大尉 機 です。
増加タンクを落とした後の状態ですから、ハワイ近海の飛龍から出撃して、これから攻撃にかかろうという直前の姿かもしれません。抜けるような太平洋の青空の中に素晴らしいシルエットで描かれています。

                     
箱絵

 組み立て説明書は 縦長の1枚で いたって簡単な内容です。それでも、最初に各部の部品名がきちんと解説されていて、プラモ少年には 大切な資料となりました。
 最近のプラモデルの説明書は 単に部品番号があるだけで、飛行機に詳しいマニア以外には 何という名前の部品を今接着しているか? わからないことが多くなっています。この辺りは、古いキットの説明書に見習うべき点が多いのではないかと思います。
              キットの説明書

 こちらは組み立て説明書の組み立て順序の部分で、これだけです。 昔はこのくらいの説明書で組み立てていたのであります。中学生の時に一度 作ったことがありますが、その時も きちんと組み立てられました。これって すごいことだと思いませんか?





製作 




その1. 胴体

 キットは全面が上品な凸リベットと凸ラインです。 
胴体と主翼、尾翼を接着すれば、あっという間に形になります。
 胴体前部の機銃カバーは400番のペーパーを丸めて中心を削り、ヘコミを作ります。ここさえやれば、もっと零戦らしくなります。
翼端や翼後縁は薄くペーパーで整形しておきますと、零戦が更に零戦らしくなります。 
 機銃カバーのセンターを削ると 当然 風防前部にスキマができるので、ここは適当に。見て見ないふりをする手も有り


その2.コクピット

 さて、これが操縦席とパイロットが一体に成型されたコクピット部品です。宇宙服を来ているようで、なかなか可愛いパイロットですが、雰囲気が有り過ぎというか、SF的でシュールです。
 オリジナルの雰囲気を大事にして、このまま作るか?それとも ちょっと手を入れてみるか?、悩ましいところではあります。
 キットの部品をそのまま使うと写真のようになります。頭当てがちょっと違いすぎか。というわけで、自分の高校生時代にタイムスリップしたら このくらいの改造をしたかもしれないとの仮定で、キットの部品を使って、グレードアップすることにしました。

 キットの部品を前後に分割して、宇宙人を座席ごと取り去りました。 頭当てはプラ棒を削り作り、プラ板で座る部分を作ります。計器板の上にはプラ板を照準器に見立てて接着しました。
風防越しに見るので、何か黒いものがあればいいと思いまして。
 座席の下にプラ板で床板を追加。塗装は計器板をつやけし黒で、座席を機内色で。
 パイロットは1/72の余り部品から流用しました。座席高さは座らせてみて、現物に合わせて、プラ板を追加して調整します。

これだけで完成の姿はこのように。 
おまけに,クルシー・ループアンテナを金属線を丸めて追加しておけば 精密感もアップ。



その3 可動翼

 キットはエルロンと方向舵が可動となっていますで、そのまま可動も活かしたいが、ダラッとエルロンが下がってしまうのもかっこ悪いし。 というわけで、エルロンは0.5mmの穴をピンバイスで開け、シンチュウ線を差し込んで、半可動にしました。垂れ下がらないので、これはこれで気持ちのいいものです。もちろんエルロンの断面は翼形に整形しておきます。
 主翼翼端のエルロンの可動ピンの受け部分が膨らんでいるので、ちゃんとペーパーで削り落としておきます。
 方向舵も同様にシンチュウ線を使いました。これで、半可動になります。


その4 脚庫

 古いキットですので、主脚室から胴体内部が素通しで見えてしまいます。オリジナルのキットの雰囲気を大事にするのであれば、ここはそのままとするのが作法ですが、さてどうしたものか?

     主翼下面 脚庫が胴体まで お見通しだ。
というわけで、とりあえず板鉛を完成後に貼ってぼろ隠しをしておきました。 


その5 カウリング

  カウリングは エンジンと一体の成型です。
形はよく出ているので、カウルフラップが薄く見えるように、後内側だけ デザインナイフで削って薄くしました。

 プロペラは幅が広いので、ペーパーでバリを整形する際に少し細めに削っておきます。

カウリング取り付けのため、胴体の最前部にプラ棒を接着してカウリング支えとしておきました。 

塗装

 楽しい塗装です。
 まず、塗装前に機体外面を800番のペーパーで軽く均し、沈頭鋲の端整な零戦らしく見えるように、お化粧前の素肌を整えておきます。
 全面をMrサフェーサー1000で吹き、乾いたら、整形時に消えたリベットやパネルラインをカルコなどを使って追加しました。

 塗装は全面MrカラーNo.35明灰白色としました。現代の文明の利器エアブラシを使えばあっというまです。
 コクピット内は 後で、筆を上から入れて、見える範囲を機体内部色で塗っておけば充分と思います。

 デカールはSUNDECALの零戦21型真珠湾攻撃隊セットの買いおきを使い、飛龍搭載機 B2-110 としました。
 最後に、デカール保護も兼ねて、半つや消しクリアーをエアブラシで吹いておきました。
 


完成

   ピトー管はシンチュウパイプと0.3mm洋白線の組み合わせで自作し、アンテナ柱も金属線で自作し 完成です。
 以前は、パカパカと組んだだけで楽しかったので、スタイルの正確さやディテールなどについて一度も考えたことがなかったことを思い出しました。当時は ディテールという言葉そのものが無かったと思います。
 1970年代のPPC開始以降、技術至上主義、ディテール至上主義が先鋭化し、商業誌上でも、少しでもスタイルの欠点があったり、ディテールが不足するキットは 「プラモデルでは無い」 呼ばわりされ、徹底的に否定されたプラモ暗黒時代がありました。 せっかく確立された飛行機、AFVのジャンルが非常に狭いものになり、精密化と高額化の隘路に嵌まり込んで行き、プラモデル作りが楽しみから苦しみに変わり、それが プラモデルを子供達から遠ざける一因になったかもしれません。今また、艦船のジャンルがその道を歩みつつあります。
 
 21世紀になっても、まだ その技術至上主義、ディテール至上主義の呪縛から解き放たれているとは言い難いのですが、プラモデルの組み立てを純粋に心から楽しめる時代が また来ることを切に願ってやみません。

 こうやってこのニチモのキットを改めて製作してみて、思いのほかスタイルがよく、現代でも立派に通用するなかなかの佇まいだと個人的には感じております。 1/70ですが、1/72との違いは 1.4%だけ、そう思えばたいしたことありません。
 CADもCAMも無かった1960年代に、製図板とノミと木型、それに当時の金型加工機械だけで、これだけのものを生み出した当時のニチモの方々の熱意と力量を感じます。
 
 また B級キットコレクションに一機加わりました。
おつきあいいただき ありがとうございました。






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Vol.18 2010 June.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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