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連載  世界の名作(迷作)キット発掘コーナー (第13回)

マリボックス1/72 J22A/B

by 鳥巣 Torisu           /    

<初めに>

 今年も梅雨の季節になりました。モデラー諸氏にとってはクリアー処理ができず一年で一番制作活動が鈍る季節ですね。 この季節は無理に完成させずに仕込みの時と考えて放置しているキットの掘り起こしや制作環境の整理整頓を行いジメジメした嫌な気分も一緒に片付けますか



<実機解説>

1939年9月ナチスドイツによるポーランド進攻で勃発したWW2は厳正中立を掲げるスゥエーデンに大きな動揺をもたらした。
 WW2勃発当時におけるスゥエーデン空軍の主力機は本家のイギリスでさえ骨董品扱いされたグロスターグラジェーター戦闘機とホーカーハート軽爆撃機で構成されていた
WW2勃発と同時期にソ連とフィンランド間で戦われた冬戦争において義勇軍としてフィンランド側に参戦したスゥエーデンはこれらの機体で出撃したがもはや近代戦を戦える代物ではなく数回の出撃で壊滅状態となり複葉機の時代の終焉を悟った。
但しスゥエーデンは時代の流れを傍観していただけでは無くイタリアからRe2000戦闘機の購入を初め米英から第一線機の購入を進めていたがWW2勃発後唯一入手できたのはRe2000(60機購入)のみで非常に危機的状態に陥った。中立を掲げるスゥエーデンに第一戦機を売ってくれる国は無く1940年にJ21とJ22と言う2種類の戦闘機の自主開発に踏み切った。最初に企画されたJ21は推進式のエンジン配置とツインブームを持つ当時としてはキワモノ的なスタイルの戦闘機で周囲が危惧したとおりその開発は難航した。そこで白羽の矢を立てられたのが従来の戦闘機と同じ牽引式のスタイルのJ22であった。
 J22は戦時急造の戦闘機として機体構造は国内のどこでも入手できる鉄鋼と木材を使った銅管合板で造られ開発やその後の生産には大きな問題が生じず早期の実戦配備が期待されたが戦闘機の要であるエンジンだけは当時のスゥエーデンには無く止むぉえずアメリカのプラット&ホットニー社の1065hp星型エンジンを無断コピーした物(後に事情を話しライセンス料を支払い解決した)を搭載し1942年9月に初飛行した。
欧州ではあまり見かけない空冷星型エンジンの機体は当時出現したドイツのFw190に酷似していたが他の機体に無い特色をJ22は持っていた。それは主脚を90度回転させて胴体に格納する事でこれにより翼に大きな燃料タンクを設ける事が可能となり小型機ながら1270キロの航続性能を有する事ができた。
1065hpのエンジンを搭載し575キロの速度と13ミリと7ミリ機銃各2門のスペックは各国の第一線機と比べるとかなり見劣りがするが中立を掲げるスゥエーデンの戦闘機の位置づけは領空を侵犯した航空機へ威嚇射撃を行い領空外へ誘導し退去を促すかそれが聞き入れられない場合は強制着陸を行わせるのが任務であり侵犯機の完全な撃墜ではないのでこのスペックで十分と判断された。
 実戦配備されたJ22は先に配備されたRe2000機と共に領空に迷い込んだ連合軍やドイツ機を数多く空中逮捕しWW2が終わるまでその小さな身体を張ってスゥエーデンの空を守り続けた

機体性能
全幅10.00m
全長7.8m
エンジン 空冷星型プラット&ホイットニーSC31(1065hp)
最大速度575キロ
航続距離 1270キロ(機内タンク)
武装 13.2mm
    7.9mm
各2門搭載


<キット解説>

 「マリボックス(マッチでは無い)」と言うポーランドが発祥のメーカーのキットです。
国内では90年代後半から海外キット専門店等で存在が確認されています何故かマイナーなスゥエーデンの機体ばかり発売しているメーカーで他にもサーブ105練習機やA-17急降下爆撃機が発売されています。
 キットは簡易インジエクションに似た感じを受けますが部品数は少なめで四角い枠2枚に収められています
キャノピーはインジェクションですが肉厚があります
デカールは発色がイマイチで少し滲んでいます


箱絵
胴体パーツ

デカールとキャノピー

制作

<コクピットの製作>

まずコクピットからコクピットフロアー・計器パネル・スティツク・座席の4点で構成されていますがサイドパネルが全く再現されておりません。
メーター類が彫刻されている力の入った計器パネルですが 計器パネルの取り付け位置が決まらないのと両端が干渉して収まらないのでは端をカットして押し込みました。
座席はキットのままだとキャノピーに当ってしまうので上部をカットし座席の底を平ヤスリで削り込みました
今回のキットはキャノピーが厚く中があまり見えないのでそれらしく組み上げるのが精神衛生上宜しいようで


<胴体と翼の接合>

コクピットが出来たら胴体を組みます
胴体の張り合わせ時にコクピットフロアーが干渉するのでヤスリで削って調整します。忘れて行けないのが座席の後ろにとりつける無線機カバー(?)の台形の部品です。これを胴体の片側に固定してから張り合わせないと後から取り付ける事ができません。作例では最後に取り付けようとしたため上手く取り付けられませんでした(泣)
胴体を張り合わせたら翼の取り付けです
ここでは胴体と翼が干渉したので胴体が下面側を大きく削り翼が入るように調整しました。発生した隙間や段ズレはポリパテを盛り付けて整形して修正を行いました。


<カウリングの取り付け>

空冷エンジン機は胴体とカウリングが別パーツになっているのが通例です。このキットも別パーツになっていましてエンジンパーツを胴体に取り付けたあとカウリングを付けるようになっています
しかしこれも位置決めのピン等無く全くのイモ付けなので様子を見ながらデザインナイフで削って取り付けました。
 今回は時間の都合上再現できませんでしたがキットではカウルフラップが再現されていないので余裕のある方は再現すると完成後の見栄えが違います(笑)

サフ吹きと塗装

ポリパテ修正を終えたら#400~2000の紙ヤスリで整形します。水気が抜けるまで一晩乾かします。乾いているのを確認できたら#1200の缶サフ(グレー)を吹き付けます。
サフが乾いたら消えたモールドをトライツールで彫り直します
 毎回パネルラインはキット付属のインストを見て行いますが今回は文庫本「忘れられた軍用機」の中に3面図が載っていたのでこちらを参考に彫り直しました。
自分が納得できる所まで彫り直したら塗装です
 ネットで収集した実機写真から
機体下面―ライトブルー
機体上面―ライトグリーン
と判断しました
下面のライトブルーはクレオスMrカラー117番「ライトブルー」
上面のライトグリーンはクレオスMrカラー122番「RLM82ライトグリーン」を使いました
共にWW2末期のルフトヴァッで多く使われたカラーです
基本塗装を済ませたらパネルラインにそってMrカラー40番「ジャーマングレー」でシャドウー吹きを施した上に機体色をオバースプレーしてメリハリを付けて塗装は終わりです


<ちょっと怪しいキャノピー>

塗装が終わったらキャノピーの取り付けを行います
仮り組みを行い干渉する部分を削って調整したら取り付けます
計器パネル上部のふくらみがキャノピーと大きく干渉してしまうのでここを思いっきり削らないとキヤノピーが綺麗に付けられません
自分は躊躇してしまい深く削らなかったので作例では少々キャノピーが浮いてしまう感じになりました
それとキャノピーの上部が潰れているように見えるのはプロトタイプ機の資料を見てメーカーが製品化したのかもしれません


<良く解らない脚周り>

塗装が乾いたらこの機体の最大の特徴である主脚の取り付けです
初めてこのキットの箱を空けてパーツを眺めた時に
「げっ!脚を取り付ける場所が無いじゃん」
と勘違いしましたが主脚カバーは駐機時閉まっているので主脚だけが飛び出して見えるのが正しいようです。
キットは主脚の取り付け穴が有りますが径が小さいのでピンバイスのドリルで大きく開口しました。主脚に取り付ける支柱もインストの指示では解りにくいのでこちらも資料写真を見て取り付けました。(実際に脚の収納プロセスの写真を見てみたい)




<武装のディテールアップとデカール貼り>

<参考資料>

左右2門ずつ付いている機銃ですが太過ぎるので切り飛ばしてジャンクパーツからWLの駆逐艦の主砲や高射砲等の砲身を流用して見栄えを良くしました。只の丸棒よりはましでせう
デカールは発色が悪く滲んでいるのと糊が弱いので王冠の国籍マークはストックしてあるハセガワのヴィゲンのデカールを使用し、カラスのマークとPの文字はキットのデカールを使いマークセッタを塗り個着させました。
クリアーを吹き付けて乾燥させたら完成です

航空機史上に埋もれてしまったスゥエーデンの名機J22ですが今回作例を作る為多くの文献を読んだり資料を集めているうちにWW2の中で中立を保ったスゥエーデンのタフな外交政策を学びました。
口先だけで「中立」を言うのは無意味であること
このJ22と言う歴史に埋もれた戦闘機のキットを作る機会を与えてくださった編集部に感謝です
朝日ソノラマ「北欧空戦史」
光人社NF文庫「忘れられた軍用機」
光人社NF文庫「中立国の戦い」
インターネッと海外サイトから資料画像の収集







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Vol.18 2010June.     www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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