Home  > Lockheed/Mitsubishi F-104J “栄光”(Hasegawa 1/72)>特集 ハセガワ72>2021年5月号

特集 ハセガワ 72

Lockheed/Mitsubishi F-104J “栄光”
(Hasegawa 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)

F-104J Starfighter JASDF (1/72) Hasegawa Box Artより


 もう半世紀になるでしょうか、学生時代に日本機械学会主催の工場見学会があり、三菱重工の名古屋航空機製作所を見学したことがあります。まだF-4EJは導入されておらず、F-104Jが航空自衛隊の主力戦闘機であった時代です。随分昔のことで見学した詳細は忘れてしまいましたが、今でも覚えているのはF-104の主翼前縁を見せてもらった時のことです。前縁部にカバーを被せてあり、案内の係員の方がカバーを外してくださったので、近くに寄って見てみると、まるでナイフの刃の様に研ぎ澄まされていました。そのとき数値は教えて頂けませんでしたが、後々それを知って驚いた記憶があります。前縁の厚みは僅か0.13㎜~0.25㎜とのことでした。まさにナイフエッジです。これがF-104の実機との初対面でした。そんなことを思い出しながらハセガワの1/72キットに取り組んでみました。 

F-104J “栄光” Hasegawa (1/72)


実機紹介

F-104の特徴は何と言っても、低アスペクト比で、前縁後退角26°、剃刀のように鋭い前縁を持つ超薄型主翼とT字尾翼、そして大出力のエンジンを組み合わせたロケットの様な機体形状にある。マッハ2を超えるその高速性能から「最後の有人戦闘機」と謳われたが、米空軍内では採用が思うようには進まず、前期型の最終生産形態となるC/D型までの324機で生産が終わる。しかしF-104はこれで終わらなかった。性能を向上させた後期型と言われるG、J、 S型に発展させ、NATO諸国やカナダ、台湾、そして日本に売り込み、現地生産数を含めると、総生産機数は2536機に上る。ところが最大の採用国であった西ドイツでは導入直後から墜落事故が相次ぎ、”Flying Coffin”(空飛ぶ棺)、“Widow Maker”(後家さん造り)といった不名誉な名前が付けられた。917機導入されたうち270機が失われ、110名のパイロットが命を落としたのでやむを得ないかもしれない。原因については諸説あるが、導入当初の事故が多いことから、操縦や整備の未熟度に加え、欧州独特の変わりやすい天候下での高速低空侵攻訓練の影響があったように推測される。

そんなF-104を導入した日本であるが、航空自衛隊は実にこの駿馬をうまく使いこなした。日本での導入の概要を見てみよう。この導入については後に”ロッキード事件”となって政官民を巻き込んだ大疑獄事件となるが、運用実績などを考えるとF-104への選定変更は間違っていなかったと思う。日本が導入したJ型はNATOで採用されたG型から核攻撃機能を取り除いた以外は基本的に同じで、全天候要撃機として使用された。また複座型のDJ型は米空軍のD型と基本的に同じであるが、火器管制装置もヴァルカン砲も外した純粋の練習機であった。いずれもエンジンは、ジェネラル・エレクトリック社のJ79-GE-11Aを石川島播磨重工(IHI)でライセンス生産したもので、J79-IHI-11Aが搭載された。

F-104J “栄光” Hasegawa (1/72)


 J型とDJ型の内訳は、当初J型が180機、DJ型20機の総計200機であったが、後にJ型が30機追加調達されJ型210機で総計230機となった。J型は3機が完成品輸入、17機が三菱重工(MHI)でノックダウン生産、残る190機がMHIでライセンス生産されている。但し3機の完成品は、完成後分解して日本に移送されたもので、MHIで再組立てされている。DJ型20機は全て完成品輸入であるが、J型の3機同様の手順でMHIにて再組立てされている。こうして生産されたF-104は部隊配備へと進む。最初に配備された部隊は北海道の千歳基地をベースとする第2航空団第201飛行隊で、1963年3月のことであった。201SQはF-104のマザースコードロンとなり、その後パイロットの養成にも力を発揮した。生産機の増加とともに部隊配備も拡大していく。2番目に編成されたのが宮崎県新田原基地の第5航空団第202飛行隊で、スクランブル対応のF-104初の部隊となる。その後も順調に生産と配備が進み、1967年12月に全機完納された。今回製作したF-104Jが所属した83航空隊は、1972年5月15日の沖縄返還に伴い、南西空域の防空のため沖縄の那覇基地に新編された部隊で、同年11月に百里基地の第7航空団からF-104Jを擁する第207飛行隊が移駐し、南西空域防空の任に就いた。 

製作

 キットには3飛行隊分のデカールが付属していましたが、いずれも防錆塗装を施した機体でした。 しかしここは金属色に輝くマルヨンが作りたいという思いで、プラッツから出ているデカールを使用して、第83航空隊(後に南西航空団に昇格) 第207飛行隊の機体に仕上げることにしました。

ではキットを見ていきます。本キットは、J型以外の型式の機体や複座型への展開を考慮し、前胴部と後胴部で分割されています。前後のつなぎ目に問題ないかが気になって、最初に仮組をしてみました。クリアパーツも含めパーツの合いは良好でしたが、左右胴体のパーツの合わせ目だけ、少し段差の生じることが分かりました。もう一つ心配していた主翼の取り付け角度もしっかり出せそうですので、工作時のハンドリングを考え、主翼は塗装を終えてから胴体と接合する手順で進めることにしました。以下、各部の工作過程について紹介します。

1. コクピット
 前胴部を組み立てるために、最初にコクピットの組み立てから入ります。キットの主計器盤とサイドコンソールには、小さいながらもしっかりと計器やスイッチ類のモールドがされています。丁寧に塗り分ければ見栄えの良い計器盤に仕上がると思いますが、この小さな塗分けは老眼の目には厳しく、主計器盤にはeduardのコクピットセットのカラーエッチングパーツを、サイドコンソールのパネルには付属のデカールを使用して仕上げました。写真1が主計器盤、写真2がコクピットタブです。サイドコンソールのエンジンスロットルの基部やコクピットに取り付けたフットペダルもエッチングパーツで、スロットルレバーはプラ棒で代用しています。操縦桿はキットのものです。

(写真1)主計器盤

(写真2) コクピットタブ

そしてコクピットタブに主計器盤と背面のパネルを取り付ければコクピットは完成です。(写真3) 

(写真3) コクピット

 コクピットへの取り付けは最後になりますが、次にエジェクションシートを作っておきます。キットのシートはシート部と側面のパネルの3つで構成されています。塗装後に、エッチングパーツのシートベルトや射出ハンドルなどを取り付けて完成です。(写真4)少しリアルになりました。

(写真4) エジェクションシート

2. 前胴部
 前胴部の左側パーツにM61Aヴァルカン砲の砲口部のパーツを取り付け、整形しておきます。その後コクピット下方に前脚収納庫を取り付けて前胴パーツに組み込みます。キットには指定が無かったのですが、万一のことを考え、コクピットと前胴パーツとの隙間に鉛板を詰め込みました。(写真5) そして左右パーツを接合した状態が(写真6)です。

(写真5) コクピットを取り付けた前胴部右側パーツ

(写真6)  左右パーツを接合した前胴部

 キットのインストではこの後、両サイドにエアー・インテイクを取り付けることになっていますが、後胴部と接合した際にインテイクラインに段差が生じる可能性を考え、ショックコーンのみを取り付け、インテイクカバーは前後胴体パーツを接合してから取り付けることにしました。航空自衛隊のF-104のショックコーンとインテイクリップは黒色塗装が施されているので、ここでショックコーンとインテイクリップに黒色塗装を施しました。インストの指示ではマットブラックとなっていましたが、ゼミグロスブラックで塗りました。(写真7)が塗装済みのショックコーンを取り付けた状態の前胴部です。ショックコーンを取り付ける周囲の胴体外板にも予め銀塗料(Mr.カラーの8番)を吹き付けています。また(写真8)が左右のインテイクカバーです。全体を銀塗装したうえで、リップ部をセミグロスブラックに塗っています。

(写真7) ショックコーンを取り付けた前胴部

(写真8)  左右のインテイクカバー

3. 後胴部
 後胴部も左右パーツを接合する前にアフターバーナー・ダクトを取り付けなければなりません。内側を焼き鉄色と艶消しの黒で塗装したアフターバーナー・ダクトを後胴部に取り付けます。(写真9)インストではノズルも接着するようになっていますが、後の塗装作業を考えノズルは後で取り付けることにしました。そして左右後胴部パーツを接合したのが(写真10)です。

(写真9) アフターバーナー・ダクトの組み込み 

(写真10) 左右を接合した後胴部

 ここで前述した胴体パーツの段差の問題が発生しました。後胴部の左右がうまくフィットせず、接着後サンドペーパーで修正します。しかしこのアフターバーナー周辺部にはリベットが打たれていて、削り取ってしまうと見栄えが悪くなるため、打ち直すことにしました。打ち直した後の状態が(写真11)です。まだ不ぞろいのところがありますが、塗装前にもう一度修正しました。

(写真11) 後胴部の整形部


 後部エンジン収納部周辺の外板パネルは、いくつかの金属色やエアークラフト・グレーで塗分けます。そのため、前胴部と接合する前に、接合部近辺だけを除いて垂直尾翼を含む後部胴体部を先に塗装してしまいました。(写真12,13) 使用した金属色は、Mr.カラーのスーパーステンレス、銀、銀と焼き鉄色の配合比の異なる2種の4種です。

(写真12) 後胴部外板の塗装(側方から見る)

(写真13) 後胴部外板の塗装(上方から見る)



4. 胴体部
 いよいよ前胴部と後胴部の結合です。まず(写真14)の主脚アセンブリーを後胴部に取り付けます。主脚アセンブリーは主脚柱とストラット、そして主脚収納庫の隔壁から成り、少ない部品でF-104の主脚部の特徴を捉えています。予め塗装して墨入れも済ませました。 

(写真14) 主脚アセンブリー



 前胴部と後胴部を結合すると、やはり接合部に僅かながら段差が生じたのでサンドペーパーで平滑にし、塗装です。塗装は、最初に機種のレドームをスカイ(Mr.カラーC26)で塗り、マスキング後残った銀塗装を済ませました。その後マスキングをして機首上面のアンチグレア塗装をグリーン/FS34075(Mr.カラーC309)で、コクピット背面のUHF、IFF、TACANアンテナパネルをタン(Mr.カラーC44)で塗装しました。(写真15)、同じく機首下面にあるUHFアンテナパネルもタンで塗っています。(写真16)


(写真15)  塗装を終えた胴体


(写真16) 塗装を終えた胴体下面


 塗装が終わればデカールの貼り付けですが、その前に塗装済みの水平尾翼やアレスチングフック、そしてサイドワインダー用パイロンの取り付けラックなどを取り付けてしまいます。そしてデカールの貼り付け作業に移ります。プラッツのデカールはカルトグラフ製ですが、細かなステンシルも一体になっているため、見た目より貼り付け枚数は少なくて済みます。反面、複数のマーキングやステンシルの間の透明部分の面積が広くなり、シルバリングが気になりました。でも流石カルトグラフ、シルバリングは皆無ではありませんでしたが、予想より少なくて済みました。デカール貼り付け事例を1枚載せておきます。(写真17)


(写真17) 胴体のデカール貼り付け事例


5. 主翼
 主翼は左右それぞれ一枚成型のシンプルなもので、胴体とのフィッティングも良好です。従ってランナーから切り離す程度で整形作業もそれほどありません。翼端に燃料タンクを取り付けますが、燃料タンクとのフィッティングも良好です。それぞれ塗装してデカールを貼って、主翼にタンクを取り付ければ主翼部が完成です。(写真18&19) 主翼の塗装は、上面の翼付け根に少し金属色の部分が残りますが、基本的には上面が白、下面がエアークラフト・グレーです。翼端タンクは中央部をファインシルバー、前後部をシルバーで塗分けましたが写真では見分けがつかなくなりました。

(写真18) 完成した主翼部(上面)

(写真19) 完成した主翼部(下面)


6. 最終組み立てと仕上げ
 今回はコクピット以外の小物の製作については割愛しましたが、胴体部ではコクピットにエジェクションシートとガンサイトを取り付け、塗装済みのウィンドシールドとキャノピーを取り付けます。この時、ウィンドシールドとキャノピーのマスキングは付けたままです。そして主翼、脚、脚カバー、排気ノズル、サイドワインダーのランチャー、機首ピトー管、全温度センサー、カートリッジ・リンク・エジェクターなどを取りつけると組み立て完了です。その後グリーンのアンチグレア―の部分をマスキングし、グロスのクリアで全体をオーバーコートし、ランディングライトやナビゲーションライトのクリアパーツを取り付け、残っているマスキングを外して適度に墨入れと汚しを付ければ完成です。(写真20)がコクピット付近の拡大写真で、少し分かり辛いですがウィンドシールドを通してガンサイトが覗いています。また(写真21)が前脚部で、その後ろに白いサイドワインダーのランチャーが見えます。(写真22)が主脚部で、左右主脚扉の付け根にランディングライトが見えます。 

(写真20) コクピット部


(写真21) 前脚部


(写真22) 主脚部


 そして(写真23~26)が完成機の写真です。

(写真23) 完成したF-104J “栄光”


(写真24) 完成したF-104J “栄光”


(写真25) 完成したF-104J “栄光”


(写真26) 完成したF-104J “栄光”


 ハセガワが1989年に新金型の凹彫でリリースしたのが、今回製作したキットです。今から30年以上も前ということになりますが、近頃のキットにも見劣りしません。作り終えて改めてこのキットの優秀さが分かりました。適度な部品点数でF-104のイメージを的確に表現してくれています。最近は1/72スケールでもやたらと部品点数が多く、割高なキットが氾濫していますが、このキットは手ごろな価格で、手軽に、速く、正確に形に出来るという、プラモの見本のようなキットだと思いました。ハセガワさん、飛行機キットでもっと頑張ってください!


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