Home  > Grumman/GD EF-111A “Raven”(Monogram 1/72)>特集 プラモデル温故知新>2022年7月号

特集 プラモデル温故知新

Grumman/GD EF-111A “Raven”(Monogram 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)

EF-111A Raven (1/72) Monogram Box Artより


 可変翼機の模型の醍醐味は、主翼の後退角を変化させ、いろんな姿勢を見ることができることだと思います。ところが主翼を動かすとなると実機でも大変で、いろいろ工夫が必要となります。主翼を大きく後退させたときには主翼付け根の一部が胴体に食い込んできます。つまりこの部分に主翼が入り込める隙間を設けなければならないということになります。このため実機では、この部分にラバーブーツを取り付け、主翼展開時に自動的に隙間が無くなるような工夫をしています。しかしプラモデルでは同じ手法は採れません。それでプラモメーカも苦労するわけです。F-14の場合は比較的目立ちませんが、今回のテーマにしたF-111やトルネードの様に、胴体の側面に主翼が入り込むタイプでは難しいですね。アカデミーのF-111(1/48)ではこの間隙が発生するのは諦め、可変後退角の再現に重点を置いています。一方ハセガワのF-111(1/72)では、スケール性重視で、主翼を前進させた状態でキット化し、そのかわりに前縁スラットや後縁フラップを展開状態にできるようにしています。作例のモノグラムのキットは、面白いアイデアで主翼展開時の隙間を無くしています。これには、なるほどと感心した次第です。後述の製作記事の中で紹介したいと思います。

EF-111A “Raven” Monogram (1/72) 


実機紹介

 1973年10月に起こった第4次中東戦争はこれまでとは異なる展開となりました。エジプト空軍機がイスラエル軍のレーダサイトや司令部中枢施設を最初に叩き、侵攻を有利に展開することになったのです。この教訓から米空軍では一段と強力な電子妨害装置(ECM)を搭載したエスコートジャマ―の要求が高まり、新しい電子戦機の模索が始まりました。このとき米空軍が注目したのは、米海軍がA-6Aをベースに開発した電子戦機EA-6A “Prowler”やその後継機、EA-6Bが搭載する電子妨害装置Eaton/AIL ALQ-99でした。EA-6Bをそのまま導入するのが理にかなっているように思えるのですが、空軍の要求する高速性、航続距離、搭載能力にEA-6Bが適合しなかったのです。そこで行き着いたのが大型の可変翼戦闘機、F-111を電子戦機に改修する案でした。そして2機のF-111Aを電子戦機に改修する契約が1974年12月26日に、EA-6A/Bで実績のあるグラマン社と交わされました。2機の試作機の内1機は空力的実証機、もう1機が電子戦機材をフルインテグレーションしたコンプリート試作機でした。前者の空力実証機は、契約から1年後の1975年12月26日に初飛行に成功したのですが、コンプリート試作機の方は、初飛行が1977年3月10日までずれ込んだのです。遅延の大きな理由は、EA-6Bの2名の電子戦士官が操作する機材を一人で操作できるように改修することに時間を要してしまったことのようです。試験評価結果からEF-111Aへの改修が着手され、1985年12月23日までに合計42機のEF-111Aが誕生しました。1981年11月には戦術空軍(TAC)傘下に2個飛行隊がEF-111Aの専用部隊として編成されており、改修を終えたEF-111Aは順次実戦部隊へと配備されていきました。

 当初計画ではAGM-88 HARMの装備が予定されていたのですが、改修途中で計画が変更され、自衛用のAIM-9のみ搭載可能なエスコートジャマ―となってしまいました。そんなこともあってかEF-111Aの退役は意外と早く、1993年に訪れています。

EF-111A “Raven” Monogram (1/72)


製作

 モノグラムのキットは合わせ部分に多少難がありますが、全体の形状や細部のディテールが素晴らしいので、今回はキットをストレートに組んでみました。凸のパネルラインもそのまま活かしています。作品は付属のデカールを使用して 366th TFW/388th TFS所属機に仕上げました。

 ではキットを見ていきます。実機が大型の戦闘機ですので1/72スケールでも大きいという印象です。(写真1)が全体のパーツです。動翼も固定ですので大きさ程にパーツは多くありません。クリアパーツはキャノピーが1つというシンプルさです。長い胴体は前後で2分割されています。複雑な部品も一体成型されており、また脚収納庫内にも配管のモールド等が施されているところなどは流石です。しかし前脚と前脚収納庫扉、そして主翼など、先に組み込まなければならないパーツもあり、塗装作業を考えながらインストにもよく目を通して作業にかかりました。以下、各部の工作過程のポイントについて紹介していきます。

(写真1) キットのパーツ


1. コクピット
 まずコクピットの組み立てですが、キットはバスタブコクピットと主計器盤、パイロット席のスティックと2個のシートの5部品で構成されています。主計器盤には計器がモールドされており、シートにはシートベルトもモールドされているので塗装して組み込めば、コクピットは完成です。(写真2)がシートを収めたコクピットで、(写真3)が主計器盤です。

(写真2) コクピット
(写真3) 主計器盤


2. 前胴部の組み立て
 次にコクピットを組み込む前胴部を組み立てます。前胴部の左右パーツの裏側にはコクピットの側壁や主脚収納部壁面の配管類などがモールドされていますので、しっかり塗装しておきます。(写真4)が塗装した前胴部左右パーツです。写真では表が見えませんが、左右パーツにモールドされているインテイクダクト部分も主脚収納部と同様、インシグニアホワイトに塗っておきます。

(写真4) 塗装を終えた前胴部左右パーツ


 次に組み立てたコクピットと前脚収納部を組み込んで前胴部左右パーツを接着します。この時、機首レドーム内に錘を入れました。(写真5)が左右部品を接着した前胴部で、(写真6)が前胴部に組み込まれた前脚収納部です。この後接合部を整形し、グレアシールド部を含めコクピット周りを艶消しの黒で塗装しました。(写真7)このときキャノピーと胴体とのフィッティングをチェックしたのですが胴体側に少し高く、段差が生じたため胴体上部のキャノピーとのインタフェース部を整形し、キャノピーからの胴体へのラインがスムーズになる様に修正しています。

(写真5) 組み上がった前胴部


(写真6) 組み込まれた前脚と収納庫

(写真7) 防眩塗装をしたコクピット

3. 前胴部と後胴部の組立
 まず前胴部と後胴部下面パーツとを接着します。その後、後胴部下面パーツへベントラルフィンと主翼前進時に胴体に生じる間隙を埋める隙間パーツを組み込みます。(写真8)

(写真8) 前胴部と後胴部下面パーツを組み立てた状態


 最初にも書きましたように主翼の可変時に主翼が通過する胴体部分に生じる隙間を埋める隙間パーツがこのキットの特徴の一つでもあるので、もう少し説明しておきます。(写真9)が隙間パーツ取り付け部を拡大したものです。写真に説明を付したようにこのパーツは片持ち梁を成していて胴体側の端部が固定されています。従って、主翼が入ってくる(後退する)とこのパーツに主翼の後縁が当たり、隙間パーツを撓ませながら押し込んでいきます。また主翼が出ていく(前進する)ときにはこれ自体のバネ性で元の直線状態に戻り、胴体側の隙間を塞いでくれます。グッドアイデアです。しかしあまり繰返し主翼を動かすと疲労破壊するかもしれません。

(写真9) 隙間パーツの説明写真


 次にエアー・インテイクを取り付けます。胴体側に取り付けるとスプリッターベーンのところに隙間ができてしまいました。そのため(写真10)のようにプラ板を差し込み接着し、固着した後整形しました。写真は整形前の状態です。

(写真10) エアー・インテイク部


4. 主翼と垂直尾翼の組み込み
 ここからは一挙に機体の形へと組み上げていきます。主翼と垂直尾翼の形状は(写真1)を参考にしてもらいたいと思いますが、主翼は上下の2つのパーツから、また垂直尾翼は左右の2つのパーツから成る単純な構造です。主翼は根元に歯車が付いており、左右主翼の歯車をかみ合わせることで、同調して主翼が前後に動きます。上下接着した後は整形して塗装です。EF-111Aは機体上面がダークグレイで下面がライトグレイです。作例では上面色にFS36320(Mr.カラーC307)を、下面色にFS36496(Mr.カラーC338)を使いました。次に胴体内に収まる主脚収納庫をインシグニアホワイトに塗り、主脚収納庫のパーツにモールドされているエンジンファン部分は黒鉄色で塗りました。(写真11)が塗装の終わった主脚収納庫部です。 

(写真11) 主脚収納部


 この主脚収納部を胴体内に収め、左右主翼を付けた後胴部上面パーツを胴体部に接着。その後垂直尾翼を後胴部上面パーツに取り付けると機体の基本形が出来上がりました。(写真12)

(写真12) 主翼と垂直尾翼を取り付けた終えた状態


5. 塗装とデカール貼り付け
 機体の塗装色は前述したとおり、上面ダークグレイ、下面ライトグレイですが、まずエンジン排気口周辺の金属部分から始めました。写真にはありませんが、エンジンノズルも一緒に塗っています。基本色は焼鉄色で、少し黒鉄色や銀を加え塗分けました。次にキャノピーをマスキングし、艶消しの黒でキャノピーフレームを塗装、オーバーヘッドコンソールを内側フレームに接着しました。(写真13)これで機体塗装の下準備ができましたので、塗装済みの主翼、エンジンノズル部周辺をマスキングし、キャノピーを機体に取り付けた後、下面、上面と塗っていきました。このとき水平尾翼も一緒に塗装しています。最後にマスキングして機首レドームをミディアムグレイ(FS36375: Mr.カラーC308)に塗装しました。上下面の塗装の終わった状態が(写真14)です。

(写真13) マスキングしたキャノピー


(写真14) 上下面の塗装が終わった状態


 次に垂直尾翼内に収まっているECCMの受信アンテナ群のレドーム部分を機首レドームと同じミディアムグレイで塗りました。(写真15)

(写真15) 垂直尾翼の塗分け


 塗装が完了すればデカールの貼り付けです。時代物のデカールのため貼れるかどうか心配でしたが、さすがにモノグラムのデカールです。30年やそこらでは大丈夫のようです。ただモノグラムのデカールのフィルムは少し厚目のため、凸パネルラインへ馴染ませるのが大変で、一部ではシルバリングを起こしてしまいました。(写真16)がデカールを貼り終えた機体上面、(写真17)が機体下面です。

(写真16) デカールを貼り終えた機体上面


(写真17) デカールを貼り終えた機体下面


6. その他部品

 機体下面に取り付けられ、完成するとあまり見えなくなる部品について紹介しておきます。一つ目は主脚です。(写真18)は1/72スケールながらリアル感のある主脚柱です。(写真19)は主脚でこれに主車輪を装着した状態です。

(写真18) 主脚柱

(写真19) 主脚

 次は主脚収納部前方カバー兼エアーブレーキです。(写真20)エアーブレーキになるので裏面がインシグニアレッドで塗られています。
(写真20) 主脚収納部前方カバー兼エアーブレーキ


7. 最終組み立てと仕上げ
 塗装とデカールを貼り終えた機体をスーパークリア艶消しでオーバーコートし、適度に墨入れと汚しを施します。また主翼端の航法灯をクリアレッド(左舷)とクリアブルー(右舷)で塗っておきます。そして最後に水平尾翼や上記部品等を組付けて完成です。(写真21~25)に完成機の写真を示します。

(写真21)完成したEF-111A “Raven” 



(写真22)完成したEF-111A “Raven” 



(写真23)完成したEF-111A “Raven” 



(写真24)完成したEF-111A “Raven” 



(写真25)完成したEF-111A “Raven” 


 古いキットですが完成するとそのスタイルは実機を彷彿させます。主翼の動くのも気に入りました。ハセガワのキットもストックにあるので眺めてみると、主翼の構成は大きく異なりますが、主要な分割はこのキットを参考にしているようにも見えました。次はハセガワのベストキットにも挑戦してみたいと思っています。但しデカールがネックです。


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