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誌上個展

<日本航空史> 薄墨色 飛龍と疾風のカラー写真

  by 加藤 寛之
プラモデル コラム

 今回は予定を変更して、一般の新刊書をネタにする。新刊書とはいえ、いったん売り切れると入手が難しいためである。版権のことを考え写真掲載が出来ないことはご容赦ねがいたい。
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 太平洋戦争の末期といえるころ、日本陸軍機の上側面色はオリーブドラブのような色の黄緑七号色になったという認識で、今日ではまとまったように思う。色は明確に規定されていて、長い間言われてきた、茶褐色とか、薄墨色とかも、本来はこの色ということらしい。
 でも、見本色があってもその色で塗料が現場へ納入されたとはいえない。三菱の工場の機体が全部同じ色で驚いた(他の工場では製造ロットで色が違っていたのだろう)という話がある。色を塗ってから時間が経過すれば変色もするし、陽光のあたり方や見た距離でも色は違って見える。たとえば旧国鉄色のブドウ色が茶色に見えるのはよく知られたこと。変色しやすい練習機のオレンジ色は上下面で違う色だったという。このように決まっていたということと、実際はこんな色だったという色の違いは、両立する。
 「薄墨色」もそのひとつだと思う。薄墨色は『航空ファン』誌の折込みカラー側面図を描いたり、模型記事を著したりしたソリッドモデラーの長谷川一郎氏が飛龍を例に言及した色だ。オリーブドラブが劣化して白っぽくなったような色らしく、私は色あせた自衛隊車両を見て「これが薄墨色って色だろうな」と思ったことがある。
 これがどうやら正解だった。2023年2月21日発売の岩波新書『占領期カラー写真を読む ―オキュパイド・ジャパンの色』(佐藤洋一・衣川太一)のp.112~115にカラー印刷で、これが薄墨色だろうと思う飛竜と、明るい緑色の疾風の写真が掲載されていた。疾風のスピンナーとプロペラの緑色、飛龍のスピンナーの茶褐色、主翼前縁の黄橙色がいかにもそれらしいから、機体の色もそれなりに再現されているとみなしたい。
 飛龍は下面の色も見えて、上面色を白で薄めたような同系色に見える。薄墨色は黄緑七号色の褪せた状態となるのだろうが、この写真を見ると、少なくとも飛龍の模型に薄墨色を塗ることが少しも不自然でないと分かる。疾風もおどろくほど明るい色で、どう見ても暗い色ではない。
 印刷に携わった人なら、カラーフィルムの色が自然の色と違うこと、プリントするお店でも色に差があること、時間が経過するとカラーフィルムも紙ヤキも変色すること、それを元に印刷する際の発色にも差があること、使う紙でも鮮やかさに大差があること等々、カラーの印刷物の色で実物の色を細かく論じることは無意味なことを知っている。でも、モノクロでは得られないカラー印刷の情報量の多さも知っている。飛龍や疾風、さらに太平洋戦争中の日本陸軍機の塗装に興味がある方は、ぜひ岩波新書『占領期カラー写真を読む ―オキュパイド・ジャパンの色』を入手してほしい。
 さらに付け加えると、実戦中の機体は磨かれたようにきれいに掃除されていたはずだが、上述写真の撮影時点では埃を被って白っぽいだろうし艶もなくなっていただろう。同書の写真には、迷彩のような雲形模様がある機体があるのだが、私は焼却のために油をかけた跡のように思うのだが、どうだろうか。アンテナ支柱が白く見える機体があるが、これは白いのか太陽光の反射なのか?
 形のことでいえば、p.112下の飛龍の機首写真で、意外なほどコックピット側面胴体断面が平面的なことや、円断面の機首との融合部分の形がよくわかる。
 冒頭、「版権のことを考え写真掲載が出来ない」としたが、それでは無愛想なので、本記事用に同書の明るい緑色に写った疾風を雰囲気再現してみた。



  上面色は、Mr.カラーの304オリーブドラブFS34087ウェポン用に22アークアースを加え、さらに35明灰白色(三菱系)を加えた色が基本。さらに汚れた感じにするために、希釈した33つや消しブラックと希釈した125カウリング色を斑にかけてある。下面は、35明灰白色(三菱系)に3色を混ぜた上面色を加えてみた。機首上面の反射防止の黒は125カウリング色にして褪色感を出してみた。参考にした実機の垂直尾翼マークは赤丸に白矢だが、気にしないでキットデカールをそのまま貼ってある。
 使ったキットはタミヤ1/48。かなりベテランのキットなのだが、発売時に傑作といわれただけのことはあって、今みても見事な姿だ。外観にかかわる加工はプロペラを薄くしたくらいでキットを組んである。



追記1:『占領期カラー写真を読む ―オキュパイド・ジャパンの色』の疾風の色を見たときに、“これか!”と思った別の事情がある。それは、月刊モデルアート誌1996年7月号(通巻472号)表紙にある旧マルサンの百式司偵の色だ。これは私が作ったものなのだが、実機を見たことがある人に基づく模型資料本や雑誌記事から「こんな色でも良いのではないか」と思い切って塗った色だった。そのころの常識的な色ではなかった。同号にはハセガワの五式戦の広告も載っていて、その色の違いは歴然。自分でも不安でいっぱいだったが、浜松で陸軍機を見たことがある方が「いい色だ」と言ってくれたそうだ。そのときに何がいい色なのか私には分からなかったのだが、『占領期カラー写真を読む ―オキュパイド・ジャパンの色』の疾風の色は、これに似ていた。
25年以上経過してしまったが、「いい色だ」の言葉に感謝している。

追記2:「薄墨色」の飛龍はどうしたって? ハイ、双発だし風防ワクの塗装が大変なので作りませんでした。



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