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特集 絶版プラモデルを作る

 Grumman A-6E TRAM “Intruder 製作記(Fujimi 1/72)

by Kiyoshi Iwama(ひやめし会)


Grumman A-6E TRAM “Intruder” (1/72) Fuimi Box Artより

 最近完成したフジミのA-6E TRAM Intruderが、Webmodelers 8月号の特集の一つ、“絶版プラモデルを作る“に該当したので、製作記事にしてみました。このキットが初めてリリースされたのは1987年でした。その後次々とバリエーション展開され、いずれも1/72スケールでは決定版と言える出来でした。このイントルーダが厚木基地から姿を消した2003年に、当時のVA-115”Eagles”のCAG機のマーキングで、このA-6E TRAM イントルーダが再版されたのが最後で、その後絶版キットとなってしまったようです。今回の作品は、CVW-5でVA-115のシスタースコードロンとして厚木基地にも駐留したVA-185の所属機に仕上げています。完成までのポイントを簡単にまとめてみました。

実機紹介

 A-6 イントルーダの誕生は今から遡ること約60年前のことでした。朝鮮戦争の経験から低空侵攻が可能な全天候艦上攻撃機の必要性を痛感していた米海軍は、そうした要求性能を盛り込んだRFPをまとめ1957年3月に発出しました。これに各社から提案書が提出され、年末にグラマン社が提案したModel128が選定されました。機体は鼻先が丸い、サイドバイサイドの複座型で、太めの胴体に後退角25度の主翼を中翼に配したもので、エンジンは双発で、P&Ws社製のJ52ターボジェットエンジンが選ばれました。そして1959年3月、試作機4機の製造契約が結ばれ、開発がスタートしました。(その後4機が追加)この時の機体の呼称は、A2F-1(後のA-6A)です。機体の開発は順調に進み、1960年4月19日には試作1号機がグラマンのカルバートン工場で初飛行に成功しました。短期間で初飛行に漕ぎつけ開発は順調なように見えましたが、ウェポンシステムとしてイントルーダに欠かせないDIANE(Digital Integrated Attack and Navigation Equipment) の開発に手間取り、部隊配備が始まったのは1963年2月27日のことです。実戦部隊への配備は続きましたがDIANEは安定せず、ヴェトナム戦に投入されたA-6の信頼性は低いままでした。しかし時間とともに信頼性が向上し、本来A-6が保有する全天候性と大量の搭載能力と相俟って、現場の評価も向上していきます。それでもDIANEに対する海軍の不信は根強く、グラマン社はアビオニクスを改良したA-6Eの開発を海軍に提案し、認められました。

A-6Eの主な改良点はDIANEの中核をなすレーダやセントラルコンピュータのアップグレードで、レーダはAN/APQ-148 マルチモードレーダに、コンピュータはAN/ASQ-13デジタルコンピュータへと換装し、これによってシステムの信頼性と運用の柔軟性が大幅に向上しました。更に自動着艦装置も追加されたため、夜間の運用性も大きく向上しました。能力向上したA-6Eは新造機として205機が生産され、加えて482機生産されたA-6Aのうち211機がE型にアップグレードされました。A-6Eの新造1号機は1971年9月26日に初飛行し、その年の12月9日にはA-6Eの初の実戦部隊となるVA-85に引き渡されたのです。

E型では数々のアップグレード計画が進められたこともあり、初期の機体と後期のものとでは能力が大きく変わっています。特に赤外線センサーとレーザー測距、目標指示機能を持つTRAMセンサーを機首下面に搭載したことにより、機首外観が変わりました。この改修型はA-6E TRAMと呼ばれ、E型全機がこの改修を受けています。この改修でA-6Eは精密誘導爆弾の運用が可能になりました。その後海軍はA-6の更なる能力向上を目指し、TRAM、セントラルコンピュータ、そしてレーダをアップグレードし、スタンドオフ・ウェポンの運用を可能にするSWIP(Systems Weapon Improvement Program)を立ち上げます。

その一方で、主翼の疲労問題が顕在化したのです。海軍はA-6のサービスライフを延長するため、主翼を複合材製化するリウィングプログラムを並行して実施することにし、これらが適用された機体はA-6E SWIPと呼ばれるようになります。
しかし主翼を交換した機体は136機に留まり、SWIPは適用されたもののメタルウィングのままの機体も残り、これらの機体をA-6E SWIP、複合材主翼を適用された機体をA-6E SWIP Block1と呼び区別するようになったのです。そしてこれらのイントルーダは、AGM-65E/F Maverick、AGM-84 Harpoon Block1C、AGM-84 SLAM、そしてAGM-88 HARMの運用が可能になり、湾岸戦争でもその能力を発揮しました。

こうして近代化されたA-6ですが、時の流れには逆らえず、F/A-18の部隊配備が進むに伴い第一線から姿を消していきました。海兵隊のA-6Eは1992年にF/A-18Dへ、海軍のA-6Eは1993年にはF/A-18Cへと世代交代を終えたのです。


A-6E TRAM “Intruder” Fujimi (1/72)

製作

 最初はパーツのチェックからです。パネルラインは綺麗な凹彫りで、パーツの合いもまずまずですが、いくつか気になるところがありました。エンジン排気口の肉厚が厚すぎます。またドロップタンクとMERに取り受けるMk.82 500lb爆弾の外径が小さく、先端が尖って見えます。ドロップタンクは、古いですがハセガワのキットの形状や寸法が正確のようです。いずれも修正は難しいので、ドロップタンクはこのままで組み立て、500lb爆弾は使わないことにしました。またこのキットでは前縁スラットを引き出し状態にできるのですが、後縁フラップは固定のままです。実機では前縁スラットと後縁フラップは連動しています。そこで今回はフラップも引き出した状態にすべく、チャレンジしてみることにしました。最後にデカールについてですが、美しい印刷でロービジ2種、ハイビジ3種のマーキングが付属しています。今回はこの中からロービジのVA-185の機体を選択しました。


1. コクピット
 まずはコクピットから始めます。コクピットはサイドコンソールやセンターコンソールがモールドされた一体成型のボックス構造です。コクピット内はグレーFS36231(Mr.ColorC317)で塗り、コンソールには計器類が彫刻されていますが、削り取らずその上からデカールを貼ってみました。(写真1)何となくそれらしく貼れたようです。そしてハンドル部分を黒く塗ったコントロールステックを左側のパイロット席に取り付けました。このステックは少し長めのため、根元を2㎜程短縮しています。次に主計器盤ですが、こちらもグレーで塗装した後デカールを貼りました。しかしこちらの方は印刷と彫刻とが少しづれていて、歪みが出てしまいました。(写真2)

 (写真1) コクピット
 
  (写真2) 主計器盤


2. 胴体
 胴体は左右2分割だけでなく、下面が3分割された複雑な分割になっていますが、各パーツの精度が良く、仮組でもぴったりと組むことができした。これらを接合する前にまず胴体の中に組み込むものがあります。(写真3)は左側の胴体ですが、コクピットとエンジン圧縮機フロントファンとインテイクダクトのアセンブリ、排気側タービンファンと排気ダクトのアセンブリを取り付けています。また(写真4)は右側胴体で、同じくインテイクダクト・アセンブリと排気ダクト・アセンブリ、そして前脚収納庫を取り付けています。これで左右を接合すると胴体部がほぼ形になります。

(写真3) 左側胴体部

  (写真4) 右側胴体部

 左右の胴体を接合後、下面の分割部のパネルと、胴体側面のエアーブレーキ部の穴埋めパネルを嵌め込み、嵌合部の整形をした後、TRAMセンサーポッドを取り付けたレドームを胴体前部に接着しました。最後に排気口部を取り付けましたが、取り付け前に排気口内側を削り、肉厚を薄くしました。排気口の円形が崩れないよう注意が必要です。これで胴体部の工作はほぼ完了です。次に主翼を取り付ける前に胴体下面をグレーFS36375(Mr.ColorC308)で、主脚収納部を白FS17875(Mr.ColorC316)で塗ります。(写真5)

(写真5) 下面の塗装まで終えた胴体部



3. 主翼
 主翼の最大の課題は、後縁フラップ部の改造です。このフラップはファウラー式で押し出されながらダウンします。そのためフラップを増積しなければなりません。そこでまず、主翼上面のフラップ部分をパネルラインに沿って切り取ります。できるだけ歯が鋭いカッターを使いました。(写真6)が切り取った状態です。

 (写真6) 主翼上面のフラップ部分の切り出し


 次に主翼下面のフラップ部分を切り取ります。こちらはフラップを動かすアクチュエータを固定している部分の張り出しがあり、注意してパネルラインを外さないように切り取っていきます。切り取った後の状態が(写真7)です。

 (写真7) 主翼下面のフラップ部分の切り出し


  (写真6)と(写真7)の切り出されたフラップを見てわかるように上面側の奥行きが狭いことが分かります。フラップは押し出されたとき、下面側のフラップと同じ面積となるので、上面側のフラップを増積します。
まず上面側のフラップの後縁側に近いパネルラインで後縁をカットします。そのエッジ部に厚さ0.5㎜のプラバンを接着して増積します。接着する05㎜のプラバンの奥行きは後縁をカットした上面フラップと下面フラップの奥行きの差分ということになります。この状態で上面フラップと下面フラップを接着し、後縁部を薄く整形します。さらに下面フラップにあるドロップタンクとの干渉を避ける半円形の切り欠きにあわせ上面フラップに切り欠きを入れます。そしてフラップ前縁に半円形の棒を貼り付け整形しました。最後にキットではパネルラインで表現されている主翼上面のガイドレール部をプラ板で立体化しました。0.2㎜のプラ板をパネルラインにあわせ切り出し、ガイドとスライダー部を貼り付けるとフラップの完成です。改造後のフラップ上面が(写真8)、下面が(写真9)です。下面に4本の溝が見えますが、この端面にフラップを動かすアクチュエータのロッド部がヒンジを介して取り付くのですが、今回は省きました。

(写真8) フラップ上面

  (写真9) フラップ下面

なお、このフラップ改造については、本誌編集者の田口博通氏がモデルアート1997年8月号(p36~P39)に執筆された記事を参考にしています。本稿より詳細に解説されていますので、こちらも参照ください。

 この後主翼上面内側を白で塗装し、上下を接着し整形すれば主翼は完成です。


4. 胴体と主翼の結合
 左右主翼を胴体に差し込んで接合しますが、すり合わせが必要です。仮組でよく調整し、隙間が目立たないまで調整します。その後、主翼下面をグレーFS36375(Mr.ColorC308)で塗り、乾燥後胴体に接着します。このときエンジン排気口部との間に隙間や段差が生じますので、パテで修正し、主翼上面がなだらかになるようにします。(写真10)

(写真10)   エンジン排気口パーツと主翼の接合部



5. 塗装
 クリアーパーツのウィンドシールド、キャノピーをマスキングし、両面テープを使って機体に仮止めします。このとき、両者接合部のすり合わせもやっておきます。次に塗装済みの下面をマスキングし、機体上面にもグレーFS36375(Mr.ColorC308)を吹き付けます。A-6のロービジ塗装はグレーFS36375とグレーFS36320の2色で、大半が薄いグレーのFS36375です。インストに塗り分けパターンが記載されていますので、実機の写真やインストを参考にグレーFS36375の乾燥後、機体上面の薄いグレー部分をマスキングし、グレーFS36320(Mr.ColorC307)を吹き付けます。2色の境界部はボケていますので、筆者は塗分けパターンに切り取ったマスキングテープの境界部に1~2㎜程度紙の部分を残し、その部分が浮き上がるようにして塗料を吹き付けています。しかしこの2色は明度差が少なく、写真ではなかなか見分けがつきません。その後、前縁スラットの収納部を赤FS11136(Mr.ColorC327)で塗ります。ここまで塗り終えた状態が(写真11)です。

(写真11) 全体塗装を終えた機体

 次に胴体下面の塗分けを行います。エンジン排気口を焼鉄色(Mr.ColorC61)、フレアーディスペンサーを黒鉄色(Mr.ColorC28)、アレスターフック収納部を銀色(Mr.ColorC8)に塗りました。(写真12)

(写真12) 機体下面の塗分け

 また改造したフラップですが、全面グレーFS36375(Mr.ColorC308)ですが、引き出される部分は赤FS11136(Mr.ColorC327)で塗分けます。(写真13)

(写真13) 塗装を終えたフラップ


6. デカール貼り
 デカールの印刷は綺麗ですが、フィルムが厚めで、時間が経過していることもあり、軟化剤を使用しましたがなかなか面に馴染まず、シルバリングも多々発生しました。またロービジのデカールは見難く、貼り付け位置の特定にも苦労した次第です。デカールを貼った一例を(写真14)に示します。

(写真14) デカールを貼った一例


7. その他パーツ
 その他の機体に取り付けるパーツについていくつか紹介します。(写真15)は主脚、(写真16)が前脚、いずれも真鍮線でブレーキパイプを追加しています。(写真17)がフラップ、(写真18)が主翼前縁に取り付けたスラットです。

(写真15) 主脚

  (写真16) 前脚

(写真17) 後縁フラップ

  (写真18) 主翼に取り付けた前縁スラット

 (写真19)がドロップタンクで一番下のタンクが胴体のセンターラインタンク、(写真20)がMER(Multiple Ejector Rack)でラック中央の射出機にウェポンの振れ止めを追加しています。
(写真21)がアレスティングフックです。濃淡グレー(C308/C307)で塗分けましたが写真では良く分かりません。
(写真22)が主脚収納部の前方扉です。赤く塗られた手前のラッチをプラ板で作り追加しています。

(写真19) ドロップタンク

  (写真20)  MER

(写真21) アレスティングフック

  (写真22) 主脚収納部扉

 (写真23)がキャノピーで、リアビューミラーとセンターピラーに取り付けられているコントロールボックスをプラ板で作り、追加しています。
(写真24)がパイロット席へ取り付ける自製のHUDです。

(写真23) キャノピー

  (写真24) HUD

最後に、(写真25)がエジェクションシート、(写真26)がパイロットフィギュアです


(写真25) エジェクションシート)

  (写真26) パイロットフィギュア

8. 最終組み立て、仕上げ
 機体はデカールを貼り終えた後、汚しを少し加え水平尾翼を取り付けてから保護のため艶消しのクリアーをオーバーコートしました。その後仮止めしていたウィンドシールドとキャノピー外し、コクピット内を清掃、グレアシールド部に漏れこんだグレーの塗料の上から艶消しの黒を筆塗りしました。最後に7項で紹介しましたパーツなどを組み付ければ完成です。なお、ウィンドシールドの前面ガラスには機体接着前に裏側から薄めのクリアブルーを吹き付けています。(写真27)~(写真32)が完成したA-6E TRAM ”Intruder”です。

(写真27)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


(写真28)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


(写真29)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


(写真30)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


(写真31)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


(写真32)  完成したA-6E TRAM ”Intruder”


 フラップダウンへの挑戦は簡単ではなかったですが、完成機を眺めていると実機に近づいたようで、苦労の甲斐がありました。元々素地の良いキットですので絶版になったのは残念です。フジミさんには再版をお願いしたいですね。


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