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誌上個展

ホンダF1 RA272 (タミヤ 1/20)

by 田口博通 Hiromichi taguchi

 今月から始まったVintage garage は 車創世記から1970年代までのレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。どうぞあわせてお楽しみ下さい。 
第一回目で登場するのは日本を代表する葉巻型レーシングカー ホンダF1RA-272(タミヤ 1/20) です。




 キットについて
1996年にタミヤから発売された1/20 ホンダの記念すべきビンテージ・レーシングカー RA-272である。典型的な葉巻型のレーシングカーで、懐かしさが全体に醸し出される。現在のレーシングカーとは構造も全く違うのだ。同時期にハセガワからも 1/24で RA-272が発売され、バッティングしていた記憶がある。
 
 タミヤのキットは 完成後もメカニックなエンジンが見られるように、後部カウルが透明部品で構成されている遊び心のあるキットだったので、キットの設計者のその意図を汲み、ありがたく 透明部を生かして 製作してみた。
 説明書は画もわかりやすいのだが、残念なのは簡潔すぎて部品の名称がないこと。こういったビンテージカーは 実車の部品名称も添えてもらうと、組み立ての楽しさも倍加するのだが。日本のプラモデルキットは生真面目にはできているのだが、そういった 組み立ての楽しさの演出が実に少ない気がする。
 実車について
 RA-272は ホンダがRA-271でF1に参入した1964年の翌年、1965年から参戦し、最終戦のメキシコGPでリッチギンサーにより優勝を勝ち取った。1965年は1.5リッターエンジンの最終年であり、1966年からは3リッターエンジンに移行している。
 RA-272の構造は、それまでのF1レーシングカーの主流だった鋼管スペースフレームではなく、モノコック構造を採用し、エンジンをリヤサスペンション支持構造を兼ねて軽量化するロータス49と同様なコンセプトで設計されている。 これは当時 ロータスとパートナーを組みエンジンのみ供給するつもりで話を進めていたものが、直前でキャンセルとなり、車体もホンダで急遽用意することになったため、ロータスに模をとったものと思われる。


製作

キットの説明書は エンジン、後部ドライブシャフト、排気管の組み立てから始まる。丁寧に工作し、塗り分けていけば エンジンユニットは難なく完成する。今回、ファンネルは金属製別売りを使用したので、ファンネルユニットだけ、全体の完成後に接着した。 リヤサスペンションの黒い部分は艶消し黒、半艶消し黒、艶あり黒などを取り混ぜれば、アクセントになろう。

エンジンとリアサスペンション、排気管 部分



 ボディのモノコック構造は、下部シャーシー、上部外殻とサイドパネル、後部バルクヘッドに部品分割されている。
各ボディパーツは2000番くらいのペーパーで丁寧にキズ消しをし、Mrカラーのグランプリホワイトで吹き付け塗装しておこう。
 当時のホンダF1のボディ色はアイボリーくらいと言われてるが、Mrカラーのグランプリホワイトはどちらかというとアイボリーよりもオフホワイトといえる温かみのあるホワイト。ただし、経年変化で黄色味が増してゆくと考えられるので、そのまま使っている。
デカールは良質のものだが、問題は日の丸で、エアスクープもありデカールを貼るのは相当難しい。ここはデカールを型紙にマスキングして、赤塗装するのがおすすめだ。
塗装の終わった下部シャーシーにフロントサスペンションを取り付け、サイドパネルとバルクヘッドを組みつければ、モノコック構造の基礎が出来上がる。説明書の順序とは違うがシートとメーター、ハンドルは最終段階での組み込みも可能なので、そうした方が製作途中で壊れずにすむ。ここに上部ボディをかぶせれば、ボディは完成。
非常に良い精度で各部品が出来ているので、ここまで何のストレスもなく組みあがるのはありがたい。




後部バルクヘッドにエンジンを取り付ける時は、サイドフレームの6本の足の長さバランスを見ながら、エンジンを車体中心軸から歪まないように細心の注意を払って取り付けよう。
上下のリアサスアームは下部リアサスペンション、リアアップライトとそれぞれ一体なので、複雑な構造にかかわらず、意外に組みやすかった。
スプリングダンパーはシリンダーも含めて、全体をシルバーに塗っておき、スプリング部をブラックでドライブラシ的に塗装した。
全体が組みあがれば、エンジンファンネル、シート、風防キャノピー、バックミラーなどの繊細な部品を取り付けよう。資料がある人はエンジンまわりのプラグコード、燃料ホースといったパイピングを追加するのも楽しいだろう。(ただし、1/20というスケールなので 簡潔に省略した方が綺麗に見えるということもある)


完成

 タイヤの彫刻は秀逸なもので素晴らしい。
さて、上手に組んであれば、前後タイヤを取り付ければ、ピタッと4輪とも着地する幸運にありつける。 しかし、少しどれかの車輪が浮くというケースがほとんどであろう。
その時にどうしているか、そっと筆者の解決策をお教えしよう。
 平らな机の上にモデルを乗せ、ヘアドライヤの温風を車輪が浮いている側のリアサスペンションに当てながら、軽くあぶると、あら不思議、4輪がきちんと着地するようになる。
しかし、やり過ぎは禁物。過ぎたるはなんとやらでリアサスペンションが変形して取り返しがつかないことになってしまうので、充分注意して行ってほしい。
エンジンカウルは1.6mmビスでビス止めできるので接着は不要だ。ビス頭は黒く塗っておくと目立たなくてよいだろう。

 完成した雰囲気はいかがだろうか。この時代のF1レーシングカーはどれも後部エンジンがむき出しになっていてメカニック感にあふれる。


ホンダ F1 その後 

 ホンダがモーターサイクルを制した後、技術者魂を注いだのがF1だったが、実はその当時、まだホンダから4輪車は市販されていなかったのだ。 自分たちの技術が世界にどれだけ通用するものか挑戦したいというチャレンジ精神は、ホンダ、ソニーなど当時の日本企業の創業者が皆持っていたものと思う。 
90年代バブル期以降の企業経営者のように 先に利益優先、効率と結果主義の企業風土ではなかったのだ。
 さて、70年代初頭までのレーシングカーには空力効率優先ではなく、もっとモータースポーツに対するロマンのようなものを感じるのは私だけだろうか?
 しかし、当時のボディ設計は安全性も低く、ホンダは1968年シーズンでドライバーの命を奪うことになった悲劇により、F1レースから撤退した。以後は1983年にエンジン供給だけで再参戦するまで、F1の世界には足を踏み入れなかったのである。 「勝つことよりも大事なことがある。」 創業者がそう考えたからであろう。 
 
 そういったことを、もう一度 当時のF1をプラモデルで形にしながら考えてみるのも悪くはない。




ビンテージ・ガレージ バックナンバー
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)


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Vol 58 2013 August    www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /editor Hiromichi Taguchi 田口博通
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