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誌上個展

シトロエン DS19 (エブロ 1/24)
CITROEN DS19 (EBBRO 1/24)

by 田口博通 Hiromichi taguchi

  Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 どうぞお楽しみ下さい。

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  8月号から始まったビンテージ・ガレージ 第3シーズンですが、 今月登場するのは シトロエン DS19です。
 エブロから8月末に発売されたばかりのニューキットですので、ニューキットレビューも兼ねての登場です。
  エブロのシトロエンDS19は未来的なボディの流麗なプロポーションを良く表現していて、ドアが可動、エンジンルームも実車の雰囲気そのままに再現されている大変魅力的なニューキットです。

シトロエン DS19 (エブロ 1/24)


シトロエン DS19 (エブロ 1/24)  

実車について

 シトロエン・DS(Citroën DS )は、フランスの自動車メーカー、シトロエンが1955年にパリサロンで発表した前輪駆動大型乗用車である。当時としては、まるで未来からやってきた宇宙船のようなスタイルだった。 また、メカニズムが極めて独創的で そのハイドロニューマチック・サスペンションにより高級車よりも快適な乗り心地と評価され、一大センセーションを巻き起こした。

 スタイル
 イタリア人チーフスタイリストの フラミニオ・ベルトーニのデザインによる当時としては極めて先進的な流線型スタイルで、「宇宙船」とまで評されたデザインだった。ラジエーター・グリルがないそのフロントの外観は、1950年代の人々にとっては驚きだっただろう。
 
 記録写真 1955年パリサロン から


 メカニズム  内外装材料
  独自の油圧機構で統括制御する「ハイドロニューマチック・システム」を搭載した自動車として有名になった。 極めて複雑なメカにもかかわらず、その先進的なイメージがヨーロッパ人の心を惹きつけた。ベストセラーシリーズとなり、1955年から1975年までの20年間に渡ってフランス車の代表でありつづけ、合計で、約145万5,000台が生産されている。  外装の屋根は金属板でなく、当時最新の素材であったFRP(繊維強化プラスチック)が用いられている。
 内装も先進的で、1950年代当時、まだ内装用の材質としては一般的でなかったプラスチックやビニールを多用した エスプリの効いたフランス車らしい色使いで、高度なインダストリアル・デザインとなっていた。


 ハイドロニューマチック・システムについて
 ハイドロニューマチック・サスペンション・システムは 別名 シトロ - マチック・エア - オイル・サスペンションともいう。
 右はハイドロニューマチック・システムの特徴をイラストで表している。
 球体状のダンパー内に圧縮性ガス(高圧窒素ガス)を密封し、オイルを併用し調整可能とした エアとオイルを使ったダンパーと考えればよい。
 その球体状ダンパーを4輪部に設置したサスペンション装置であり、オイルのコントロールはポンプと調圧バルブで行なう。
 現代ではエアサスペンションが低振動トラック等に採用されているが、シトロエンのそれは、エア オイル併用サスペンションと考えればわかりやすい。スプリング・オイルダンパーに比較すると 低振動であり、乗り心地は良かったはずである。 
 
(図)シトロエンのハイドロニューマチック・サスペンション・システム概念


 また、もう一つの特徴は、オイル回路を使った、セルフレべリング機能であり、車重が変化しても 自動で常に最低地上高16cmに保たれた。
さらに手動で28cmあるいは9cmにすることができた。
 
 しかし、ハイドロニューマチック・システムはその複雑なメカニズムのため、整備が出来る熟練メカニックが必要で、ハイドロ関係の修理は困難を極めた。



キットについて

 エブロのニューキットのボックスアートは下のような大人っぽいしゃれた絵。パリの街角のようだ。
語らう男女が、ヨーロッパの街の情感ただようシトロエンの世界観を醸し出している。
 成形部品は モールドも良く、ボディはホワイト、シャーシー関係はブラックで、細いピラーなどのメッキ部品も非常に綺麗に仕上がっている。
成形オイルの付着も無く、塗料をはじくことが無いので、安心して作れる。 
 また、前席ドアとボンネットが可動となっていて、エンジンルームの中も見事に再現されている。

 ボックスアート 


成形部品
ボディ部品

シャーシー部品とエンジン部品
ボンネット、ドア、屋根部品、ホイル部品など
コクピット部品
メッキ部品
透明部品


デカールとタイヤ


(参考 実車のシャーシー・ボディ構造)

 右はDS19のシャシーとボディーの骨格の写真である。
 現代の自動車で一般的なモノコック構造(シャーシーとボディを一体の箱型応力外皮構造)ではなくて、1950年代のDS19の構造は頑丈なシャーシーのみで応力を受け、ボディ部分は応力を負担せず最低限の強度骨格のみを構築して、その華奢な骨格の外側にパネルを装着する「スケルトン構造」としている。このあたりの手法は、当時まだラダー(梯子形)フレームを用い、ボディを別構造としていたアメリカ車に似ている。
 DSではエンジンと前輪駆動機構はもちろん頑丈なシャーシーに組みつけられる。ボディ部は軽量化のため、ルーフはFRP製で上からかぶせるのみ。ボンネットフードとトランクリッドはアルミ製となっていた。 



製作

(1)エンジンの組み立て
 まず、説明書に従って、エンジンから組んでいく。細かい部品まで良く再現されている。 モールドも部品の合いもよいので、組み立てはとても簡単。ただし、部品の接着順序には注意が必要だ。
 例えば、B18はA18よりも先にA22(エンジンミッション本体)に接着しないと、A18の溝に入らなくなる。説明書には表現されていないので、必ず仮組をして、部品を組む順番を一度確認しよう。
同様に、ラジエターの組み立てもしっかりと仮組しながら行おう。
塗装は、説明書に細かい指示があるので、それを参考に。



塗装し、ラジエターを組み込んだエンジン



(2)ボディの塗装
 CARプラモデルは、ボディをまず塗装しないことには先に進めないので、説明書にはないが、この時点でボディを塗装する。
 まずボディ前後のパーティングラインを慎重に消す。
 ボディは白色のプラスチックで成形されているため、淡色の塗装時には 透けてしまうので、塗装前にはサフェーサーでの下塗りが必須だ。
また、透け防止のため、ボディ内部とドア内部、コクピット床裏、シート裏等も艶消し黒でしっかりと塗っておくとよいだろう。

 今回は、車体を黄色、屋根を紺色としたかったので、車体はFinishersのディープイエローで吹き付け塗装した。屋根には同じくFinishersのブラバムブルーを使った。
 車体塗装のイエローの発色を良くするためには下地が白色であることが必要なので、グレーサフェーサーの上から、一度 ホワイトサフェーサーを塗っておく。その上から、ボディ色を塗装するようにすると綺麗に仕上がる。
 ボディ上部のメッキピラー部品の下になる部分が横から見えてしまうので 忘れずに艶あり黒で塗っておこう。
 ボディの内側は内装部に相当するところは、面相筆で内装色で塗りわけておく。 
*プラスチックが白モールドなので、透け防止のため、各部品の裏側を 艶消し黒で塗っておく。

ボディには上塗りとしてディープ・イエローを吹き付けた。ドア内貼りも丁寧に塗り分けておく。
ボディ上部は 艶あり黒を忘れずに塗っておこう



(3)下部シャーシーへの前後アクスルの組み込み
 リアアクスルの取り付けでは、A28部品に遊びを設けて、車高が変えられるようになっている。車高を決めたら、A28の隙間にプラ板を挟んで接着し、動かないようにしてやるとよい。
 




*リアアクスルは A28の隙間にプラ板を挟みこんで接着する。

  フロントアクスルだが、組み立て中に部品を折って壊さないように慎重に組み立てよう。
全体に半艶ブラックを吹き付け、シャーシー部は完成だ

シャーシーに組みつけたフロントアクスル

半艶ブラックで塗装し、完成した下部シャーシー



(4)コクピットの塗装と組み立て   
 前後シートはシンプルだが魅力的な形状に仕上がっている。内装色はボディ色とのコーディネートで考えよう。今回、内装はサンドで、シートはフラットブルーで塗ってみた。ドア内貼りもあなたのセンスで塗り分けよう。
 足元のカーペットには100均で買ってきたグレーのフェルトを現物合わせで切り、両面テープで貼っている。
このコクピットをシャーシ―部品に取り付けると下部はほぼ完成となる。
コクピット内装の塗装、屋根裏、後部ウインドー内側も

シャーシー部品に取り付けたコクピット

 

(5)防火壁とダッシュボードの組み立て   
 防火壁とダッシュボードは白色のプラスチックでモールドされているので、部品の両面を半艶ブラックで塗る。
ダッシュボードは、グレー、ライトブラウンなどで、塗り分けよう。 
 キットの組み立て説明書(3,4)では、防火壁とダッシュボードを接着してから、ボディに取り付けるように指示されている。しかし、部品の収まりとボディへの取り付け作業性を考えると、まず、防火壁だけをボディに接着し、エンジンの組み付けなどを進めておき、ダッシュボードは、窓ガラスを取り付けた後で、取り付けた方が、作業がしやすい。
 上が防火壁部品、下がダッシュボード部品
塗装したダッシュボードとハンドル


(6)エンジンの取り付け  
 このエブロのキットは、ボディに強度を持たせるためだろうが、エンジンルームがシャーシーではなく、ボディ側に一体にモールドされている。そのため、エンジンはボディの前部エンジンルーム内に取り付けるようになっている。その後、エンジンルーム内の補機類を取り付ける。(組み立て説明書5) 
 もちろん、実車ではエンジンも前輪駆動メカニズムもシャーシー上に直接搭載されるので、誤解が無いように。 (参考 実車シャーシー・ボディ構造

 プラモデルではエンジンをボディに載せる設計にしたため、フロントアクスルのタイロッドバーと前輪駆動シャフトは シャーシーとボディを組み合わせた後、裏から取り付けるトリッキーな構造になっている。(説明書13) 
 それを理解すると、エンジンをボディにできるだけ正確にアライメントしておく方があとが楽だ。
 ボディ正面から見ながら、左右にエンジンが傾かないように、慎重にエンジンを接着しておこう。
 *エンジンをボディに一体モールドされているエンジンルーム内に左右に傾かないように取り付ける 

*エンジンルーム内の補機類を取り付ける。
左右の緑色球体状の物体が、実車解説で述べたハイドロニューマチック・システムのエアオイルダンパー。



(7)ボディへの窓ガラスの取り付けと可動ドアの組み立て
 窓ガラスの取り付けは汚さないよう手芸用ボンドを使って慎重に行おう。
フロントガラスだが、ボディに接着する必要はなく、メッキサッシ部品D4のピンに接着剤をつけて、フロントガラスをただ挟み込んで、ボディに接着すれば、汚れない。
 可動ドアは、下の写真のように、ドアと内貼りの間に窓ガラスを挟み込んで組み立てるようになっている。
 その際、可動ヒンジ部品C12も一緒に挟み込んでおかないと、後では入らないので注意のこと。
(写真右端 無塗装白い部品がC12)

可動ドア (可動ヒンジ部品C12(白い部品)も一緒に挟み込んでおく)



(8)可動ドアの取り付けと調整 (9) ダッシュボードの取り付け
 可動ドアは、組み立て説明書ではボディとシャーシーを組み合わせ後、最終段階で取り付けるように指示されているが、 裏から指が入れるこの段階で取り付けた方が作業がし易い。
 ボディと干渉しないようにスムーズに動き、かつボディとの隙間が出ないように調整してから、ヒンジ部品C12をボディに最終的に接着する。
  窓ガラスと可動ドアを全て取り付け後、ボディを裏返して、ダッシュボードを取り付ける。フロントガラスとの間に隙間が見えないように 自然と収まるようになっている。
これで、ボディ側は完成だ。

窓ガラス取り付け後、可動ドアも取り付けよう。
その後、ボディを裏返して、ダッシュボードを取り付ける。



(9) ボディとシャーシーの組み合わせ 
 ボディ側が組み立て完成したら、シャーシーと組み合わせる。
その後、フロントアクスルの部品や、タイヤ、メッキ部品や透明ライト部品を丁寧に手芸用ボンドを使って取り付けていく。
 ここで、自分では予期していなかった思わぬ部分が目にふれることがあり、そんな部分を面相筆で丁寧に補修塗りをして 納得がいったら、いよいよ最終コーナー。
 塗装しておいた屋根部品を上からかぶせ、エンジンフードを取り付ける。
 予備タイヤとエンジンフードが干渉するとエンジンフードが浮いてしまうので、その場合は、予備タイヤの位置を現物調整しよう。




完成

 モデルは非常に綺麗で端正な雰囲気だ。
可動ドア部は隙間もできず、ボディとの合いもよい。完成すれば、フランス車らしい雰囲気にどっぷりと浸ることができる。
細いメッキサッシの雰囲気もよく、憧れのフランス車が手に入る。

 このキットは 3DCAD設計の成果で各部品間の合いはバッチリである。削ったり、盛ったりして部品の合いを調整する必要は皆無で、そのストレスは全く無く、さすがエブロ。嬉しい。ランナーから切り離した部品は 湯口を削るだけで、そのままで使うことができる。ただ、白いプラスチックの成形品が多いので、光透け防止のため、サフェーサーの下塗りは必要だ。
  定価7800円と高価でもあるし、また、組み立て順序や塗装順序にも、仮組をしながら自分なりのアレンジと工夫が必要で、上級者向きのキットといえる。
  特に、組み立て順を確認する意味での「仮組」は必須。その組み立て順も、組み立て説明書を参考にしながらも、それにとらわれず、組み易いように自分で変えると良い。完成までには かなり頭を使う必要があり、誰しも手ごたえを感じることができるだろう。
 それだけに、一歩一歩 着実に 進めれば、素晴らしいシトロエンDS19が得られ、完成時の喜びはひとしおだ。




シトロエン DS その後

 DS19はベストセラーモデルゆえ、数々のバリエーションが登場した。
1957年 DSの仕様を簡素化した廉価型「ID19」
1958年 ワゴンタイプ
1958年 オープンモデル(デカポタブル)
と発展していく。
 
 DS/IDはフランスを代表する大型乗用車であったため、フランス政府機関の公用車としても広く用いられるようになり、政治家にも常用されるようになった。中でも大統領だったシャルル・ド・ゴールがDSを公式に使用したことで知られている。
 パレードの際には、屋根を取り外し、屋根から上体を出して手を振った。

(写真)屋根から上半身を見せるド・ゴール大統領 公用車なので漆黒のボディである。

 
 
 さて、1962年8月22日、パリ郊外の路上で、ド・ゴール夫妻が過激な右派軍事組織「OAS」により、機関銃で襲撃された際にもDS19に乗っていたのである。
 弾丸はリアガラスを粉々に砕き、片方の後輪をパンクさせたが、DSはハイドロニューマチック・サスペンションでギュイーンと車高を上げ、前輪駆動により残る3輪で走り続け、現場を緊急脱出した。ド・ゴール夫妻は無傷で、OASの襲撃は失敗に終わった。 このエピソードは、フレデリック・フォーサイスの小説を映画化した『ジャッカルの日』冒頭でリアルに再現されている。
 
 そんなことがあり、1968年には車体を更に大型化し、防弾・装甲装備を大幅強化した大統領専用の特別型DS「プレジダンジェル」が作られ、任期末期のド・ゴールに続いて後継ポンピドゥ大統領も使用している。
 (参考及び写真引用 wikipedia)

ビンテージ・ガレージ バックナンバー
ビンテージ・ガレージ バックナンバー
3rd
シーズン
2015年9月号 第14回 フォルクスワーゲン カルマン・ギア 1963年型 (GCIクレオス 1/24)
 Volkswagen Karmann Ghia 1963
2015年8月号 第13回 メルセデス ベンツ 300SL (タミヤ 1/24)
Mercedes Benz 300SL (Tamiya 1/24)
2nd
シーズン
2014年12月号 第12回 オースチン ヒーレー 100-6 (レベル1/25)
AUSTIN HEALEY 100-SIX (Revell 1/25)
2014年11月号 第11回 リンカーン・フューチュラ(レベル1/25) 
LINCOLN Futura (Revell 1/25)
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
2014年9月号 第9回 デユーセンバーグ・モデルSJ(モノグラム1/24) 
DUESENBERG SJ (Monogram 1/24) 
2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
DE DION BOUTON 1904 (UNION 1/16 )
2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
ALFA ROMEO 2300 TOURING(Burago Metal Kit 1/18)
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)



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Vol.86 2015 October.   www.webmodelers.com /Office webmodelers all right reserved /  
           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

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