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誌上個展

PRINCE R380A-1 (インターアライド 1/24)

by 田口博通 Hiromichi taguchi

  Vintage garageは創世記から1970年代までのビンテージレースカーとビンテージクラシックカーの連載コーナーです。クラシックな姿の中に優雅さと繊細さを内包した彼女達にしびれる方々も多いはず。 
 ビンテージ・ガレージは ビンテージカープラモデルの製作だけでなく、その独特の魅力を醸し出すビンテージカーが背景に持つエピソードにもスポットをあてています。 
どうぞあわせてお楽しみ下さい。

 2018年4月号から再開したビンテージ・ガレージ 第5シーズンですが、 今月登場するのはファン待望のプリンス R380A-1。 インターアライドからリトルガレージブランドで6月末に発売された1/24 ニューキット プリンスR380[1966 JAPAN GP]です。1966年のJAPAN グランプリ出走車R380A-1を忠実に再現した、レジン車体にエッチングパーツという構成の1/24マルチマテリアルキットとなっています。

 内容はプリンスR380A-1の特徴的な後部エアインテークとマッシブなテールラインを含め、見事なプロポーションのR380A-1が余すところなく表現された、魅力的なスタイルモデルのキットです。
 プリンスR380はプラモデル黎明期1960年代にタミヤから1/24スロットカーで発売されたことがありましたが、試作段階のR380-1(速度記録挑戦車)をモデライズしており、スロットカーシャーシーを収めるために 残念ながら、角ばった平面形をしていました。
 以後 本格的なR380の1/24キットは登場しておらず、1966年の日本グランプリ出走車R380A-1(優勝車は ゼッケンNo11砂子義一選手)をモデライズしたキットは初登場となります。キット化を長く待ち焦がれたモデラーも多かったことでしょう。




 箱絵 

プリンスR380A-1

実車について

 1950年代後半から1960年代前半の日本で最も技術水準の高い自動車メーカーといえば、それはトヨタでもニッサンでもなく、プリンス自動車だった。
 第2次大戦後の日本では多くの軍用飛行機会社が解体され 民営化の道を歩んだ。
 プリンス自動車は 陸軍機の立川飛行機の技術者が中心となった「たま自動車(株)」が、1952年11月に「プリンス自動車工業(株)」と改名されたものである。そこに2年後、富士精密工業(中島飛行機の栄や誉エンジンを開発製作した旧中島東京製作所)が合併し 車体からエンジンまでカバーする総合乗用車メーカーとなった。 この”プリンス”という名前の由来は同1952年に皇太子明仁親王(現天皇陛下)の立太子礼が行われたことによる。
 1960年代前半のプリンス自動車の規模は、小型乗用車の生産台数では トヨタ、日産に次ぐ第3位のメーカーとなっていた。主力車種はグロリアと今もシリーズ名の残るスカイラインだったが、戦中からトヨタ、ニッサンがトラックメーカーであったのに対し、プリンスは正に戦闘機メーカーの血筋であり、高い技術を誇っていたのだ。
 1964年の第2回日本グランプリでは 技術担当常務の中川良一(中島 誉エンジンの主任設計者)が指揮し、車両開発課を桜井眞一郎、走行実験3課を青地康雄がレース活動を担当し、必勝を目指して開発を始めた。
 ツーリングカークラスの2レースでは
スカイラインがクラス1~8位独占、
グロリアもクラス1,2,4位を占める戦績を挙げることができた。
 しかし、GTレースでは生沢徹のスカイラインGT(4ドアセダンに2リットルV6エンジンを積んだ)が式場宗吉のポルシェ904を一時はリードし会場を大いに湧かしたのだが、結局マシーン性能が格上のポルシェ904に勝利をさらわれ、2位~6位を占める結果に終わった。
 このことが、プリンスの技術陣が 本場の最新純レーシングカーポルシェ904に対抗し、それを凌駕するマシーンR380の開発を開始する契機となったのである。

(R380A-1 実車記録写真)




 R380は1964年初夏に開発が開始され、シャーシーにはブラバム(BT8A)の鋼管フレームをベースにして、ロールバーを加え、V6エンジンが搭載可能なように改造するなどした鋼管スペースフレームが使用された。
 R380の車体は、前戦闘機メーカーらしく 風洞実験を重ねて、スタイリングが決定されている。ボディはFRPではなく、アルミ合金パネルを分割してたたき出し、溶接で一体化しており、正に戦闘機の製作そのものだった。65年7月3日の村山工場テストコースでのシェークダウンの時には未塗装ベアメタルのままで走ったということだ。(参考資料 二玄社 プリンス/ニッサン R380
1965年9月 R380-1型と名付けられた公式発表がされ、JAF公認の速度記録挑戦が10月6日と14日の2回行われた。
   R380-1型    当時の記録写真


 その後、1966年5月開催の第3回日本グランプリに向けて、R380-1型に更に改良を加え、A-1型と名付けられた4台が製作された。パイプフレームは捻じり剛性を高めた改良設計とした。ボディのスタイリングも高速時の空力特性改善のため、ボンネットの傾きや、ノーズ下面を変更し、後部側面の無骨なインテークは楕円形エアインテークに変更されている。

R380A-1型

製作

 インターアライドからリトルガレージブランドで新たに発売されたR-380ニューキットについては
webmodelers2018年4月号の新製品情報欄で紹介されている。定価12,000円とよいお値段だが、価値は充分すぎる程にあるだろう。各部品は レジンとエッチングなどで構成されたマルチマテリアルキットである。
 下はレジンで成形されたボディ、コンソール、タイヤ、シート等だが、部品が欠けたり、キズつかないように塩ビのパックで保護されているのが嬉しい。レジン面には気泡もなく非常に綺麗に型抜きがされている。


 透明プラスチック板に印刷されたウインドー部品と、エッチング部品など


  デカールは1966年第3回日本グランプリに出走した4台分が付属している。デカールは白も透けず良質なものだ。
No.11 レッド 砂子義一 優勝 
No.8 イエロー 生沢徹 リタイヤ
No.9 グリーン 横山達 4位
No.10 紺 大石秀夫 2位

ボディとシャーシーの塗装

 レジンボディというと敷居が高く感じるかもしれないが、プライマリーサフェーサーを吹き付けた後は、全く普通のプラモデルと同様な工作が可能となる。
 接着には瞬間接着剤とスコッチの多用途強力接着剤を併用すると良い。
まず、ボディに、GSIクレオス Mrレジンプライマーサーフェーサーを下地塗装として吹き付ける。その後、2000番程度のペーパーで表面を滑らかにし、発色を良くするために MrカラーのNo.1ホワイトを吹いて下地は完了。
 今回はゼッケンNo11の砂子義一がドライブした優勝車 赤ボディにしたく、Mrカラーのレッドを吹き付けた。二玄社 プリンス/ニッサン R380の写真では確かにマルーンではなく、赤に見える。

Mrレジンプライマーサーフェーサーで下地塗装をする。


ホワイトで下塗りし、レッドを上塗り塗装



 デカールは厚みが適度にあり、白も透けず良質なもので、貼りやすい。
デカールが乾いて落ち着いたら、Mrカラーのクリアを全面に吹いてデカールの保護をしておく。これでボディの塗装は完了だ。


シャーシー

 ボトムシャーシーなど他の部品にもMrレジンプライマーサーフェーサーを下地塗装として吹いておく。
シャーシーは艶消し黒で塗る。シートは半艶消し黒とした。


タイヤ

 タイヤは実車はイギリスダンロップR7が使われている。
また、A-1型のホイールは、アメリカンレーシングエクイップメント製の8本スポークタイプのマグネシウム合金製となっている。
キットのタイヤはレジン製なので、プライマーサフェーサーで同様に下塗りをした後、タイヤブラックで塗装しておく。 レジン製のホイールは同様にガンメタリックで塗り、リムをシルバーで塗り分ける。


最終組み立て

 コンソールはボディを裏返しにし、下から接着する。
 タイヤは軸を通し、上ボディにセットし、ボトムシャーシーで挟む構造になっている。



 エッチング部品にはMrメタルプライマーを下地に塗り、艶消し黒を吹いておく。




 これらの部品と透明窓部品を、瞬間接着剤、スコッチの接着剤、手工芸用の透明水性接着剤などを併用しながら、ボディに慎重に取り付ける。
 バックミラーにはメタルインレットが、また排気管にはステンレスパイプが用意されていて、実感が高まる。




完成

 低い車体にリアカウルの曲線もなまめかしく、見事にプリンスR380A-1を具現化した魅力的なスタイルに仕上がっている。 また、エッチングパーツのおかげで細部もキレが良く、出色のモデルに仕上がった。





プリンス R380 その後

 1966年5月の第3回日本グランプリに向けて、4台が用意され 走り込みと細かいセッティングを重ね、プリンスは必勝を期して万全の体制を整え、当初の予想ではプリンスの圧勝という見方が強まった。
 しかし、滝新太郎がポルシェ906で出場することになり、勝敗の行方はプリンスR380とポルシェ906の対決という構図となったのである。
 レース結果であるが 42周目で滝のポルシェ906はクラッシュしリタイヤとなり、プリンスR-380A-1砂子義一のNo.11が優勝し、プリンスはその実力を見事証明して見せた。
 



 しかし、客観的に見て 勝利はマシーンのポテンシャルと別の所で決まった要素が大きいと言われている。それはプリンスのチームプレーとピットワークだった。  序盤で生沢のイエローNo.8が6周目のストレートでポルシェ906に抜き去られるまで、906をコーナーで抑え続け、その間に砂子が15秒のリードを奪った。また、滝チームの燃料補給が55秒かかったのに比較し、プリンス陣営のピットワークが際立ち、砂子はわずか15秒で済ませることができたのである。




 このレースで幸運にもプリンスR-380は優勝することが出来たが、マシ―ンのポテンシャルでは圧倒的にポルシェ906が上回っていたことをプリンスの技術陣は思い知らされる。
 充分すぎるほど走り込み練習と熟成を重ねたプリンスR380よりも、プライベートの貧弱な体制で走行練習もほとんど出来ていなかった滝のポルシェ906が、はるかに上回る速さを発揮したのである。
 プリンスの技術陣の眼にはポルシェ906のストレート後半での加速の伸びとバンクでの安定性はR380を明らかに凌駕していたと映った。
 
 この時点からプリンスの技術陣にとって新たな目標となったポルシェ906を凌駕すべく 新たなマシン プリンスR380-2の開発が始まったのである。

プリンスR380-2 実車写真 (wikipedeiaから引用)


(参考資料および引用 二玄社 プリンス/ニッサンR380)

ビンテージ・ガレージ バックナンバー
5th
シーズン
2018年7月号 第24回 ジャガーEタイプ (グンゼ 1/24)
2018年5月号 第24回 マツダ コスモ スポーツ L10B (ハセガワ 1/24)
2018年4月号 第23回 Team Lotus Type49B 1969 (エブロ 1/20)
4th
シーズン
2017年2月号 第22回 ベンツW154-M163仕様  (W163 (1939) リバイバル 1/20)
2017年1月号 第21回 ダットサンSR311 フェアレディ (フジミ(旧日東) 1/24)
2016年12月号 第20回 スカラブ Mk.4(モノグラム 1/24) 
SCARAB Mk.4 (MONOGRAM 1/24)
2016年11月号 第19回 マクラーレンM8A 1968(タミヤ 1/18)
  Mclaren M8A (TAMIYA )
3rd
シーズン
2016年2月号 第18回 ポルシェ356Aスピードスター (トミー 1/32)
PORSCHE 356A SPEEDSTER(TOMY 1/32)
2016年1月号 第17回 ブガッティT55スーパースポーツ(バンダイ 1/20)  
Bugatti model 1932 type 55 Super Sport (Bandai 1/20)
2015年12月号 第16回 フェラーリ 250 テスタロッサ(ハセガワ 1/24)
Ferrari 250 Testa Rossa (Hasegawa 1/24)
2015年10月号 第15回 シトロエン DS19 (エブロ 1/24)
CITROEN DS19 (EBBRO 1/24)
 
2015年9月号 第14回 フォルクスワーゲン カルマン・ギア 1963年型 (GCIクレオス 1/24)
 Volkswagen Karmann Ghia 1963
2015年8月号 第13回 メルセデス ベンツ 300SL (タミヤ 1/24)
Mercedes Benz 300SL (Tamiya 1/24)

2nd
シーズン
2014年12月号 第12回 オースチン ヒーレー 100-6 (レベル1/25)
AUSTIN HEALEY 100-SIX (Revell 1/25)
2014年11月号 第11回 リンカーン・フューチュラ(レベル1/25) 
LINCOLN Futura (Revell 1/25)
2014年10月号 第10回 メルセデス・ベンツ540K(モノグラム1/24)
MERCEDES-BENZ540K (Monogram 1/24)
2014年9月号 第9回 デユーセンバーグ・モデルSJ(モノグラム1/24) 
DUESENBERG SJ (Monogram 1/24) 
2014年8月号 第8回 ド・ディオン・ブートン (1904年型)(ユニオン 1/16)
DE DION BOUTON 1904 (UNION 1/16 )
2014年7月号 第7回 アルファロメオ2300 トゥーリング(1932)(ブラーゴメタルキット 1/18)
ALFA ROMEO 2300 TOURING(Burago Metal Kit 1/18)
1st
シーズン
2014年1月号  第6回 ベンツ 300SLR (レベルモノグラム 1/24) 
2013年12月号 第5回 BENTLEY 4.5L BLOWER (エレール 1/24)
2013年11月号 第4回 ブガッティ 35B(モノグラム 1/24) 
2013年10月号 第3回 BRABHAM F-3 (エレール  1/24) 
2013年9月号  第2回 ROB WALKER Team Lotus 72C (エブロ 1/20)
2013年8月号  第1回 ホンダF1 RA272(タミヤ 1/20)


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           editor Hiromichi Taguchi 田口博通 /無断転載を禁ず  リンクフリー

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